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「んー、メニュー絞れない。拓朗これ頼んでくれる?」
「ええよ」
「やったー! 少し分けてね」


 手を合わせて喜ぶAを見て、こういう可愛らしいおねだりが男心を擽るんだろうな、なんてぼんやりと考える。
 注文を済ませて先に届いたドリンクで乾杯をする。Aはビショップ、俺はビール。一息ついたところで、俺は早々に切り出す。


「それで、今日は何だったん」
「ん? 別に、拓朗に会いたくなっただけだよ」
「そういうのいらんし」
「酷いなー!落ち込んでるんだからちゃんと慰めてよね」
「やっぱ理由あるやん」


 聞かなくたって分かっている。俺を呼び出すのはいつだって恋愛事で何かあった時だ。自慢話の時もあるけど、大抵は愚痴や悩み事。案の定今回も後者らしかった。


「今日の夜ドタキャンされちゃって。1人の家に帰るの、嫌だったから」


 道理で木曜日なんて中途半端な日に。つまり男の代わりにされた訳だ。別にそれが不愉快だというわけではないが、そこで他の男を誘う所とか、1人が嫌だとか言ってしまう辺りがAの悪い所だと思う。隙だらけ過ぎて宜しくない。俺だからいいものを……なんて思うのは彼氏に悪いか。


「どこの誰だか知らんけど、あんまりいい加減なやつなら辞めとけよ」
「いい加減、ってわけじゃないけど」
「A、最近俺を誘う回数増えてるやろ」
「そうかな」


 今の彼氏と付き合い始めた当初は、俺への連絡なんてぱったりと途絶えたくせに。どうやら彼氏は忙しい男らしく、寂しさやすれ違いからか、最近はこうやって会う事が増えた。Aは分かりやすい。連絡がくるのは上手くいっていない時だから、つい俺も放っておけず駆けつけてしまう。


「こんな頻繁に会って怒られん?」
「ん? 大丈夫だよ」


 随分といい加減な "大丈夫" だな。何となく、彼氏は俺の存在を知らないな、と察する。


「会えなかった日何してた? とか聞かれないもん。私に興味、ないのかもね」
「な……」


 それじゃまるで、あの時の繰り返しじゃないか。思わずAの顔を見るが、平気な顔で到着した料理に箸を伸ばしていた。「うわ、これやっぱり辛そうだからいらないや」と渋い顔をして悩んでいた1品が俺に押し付けられる。少しわがままで、上手に人に甘える所は昔から変わらない。そこはいいのだ、別に。

 ただ、恋愛事情だけは変わって欲しいのに。Aにはもう傷付いて欲しくない。あの時みたいに──。

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夢野(プロフ) - 楽しく読みました。ありがとうございました!ただただ短編集だと思って読み始めて、sgiさんのお話あたりで、あれ??ん??これは?ってなりました。そこからもうワクワクが止まらなくてニヤニヤしてしまいました。ごちそうさまでした! (2020年4月14日 1時) (レス) id: bce1609b2c (このIDを非表示/違反報告)
わらべ(プロフ) - 更新お疲れ様でした。企画力もさることながらこの人数での様々な伏線と、その伏線回収には感動さえ覚えました!裏の状況は読者には分かりませんが沢山の人が関わり沢山の時間が必要だったと思われます、お疲れ様でした!そしてありがとうございました! (2020年4月13日 21時) (レス) id: 9fc6a8ac01 (このIDを非表示/違反報告)
さき(プロフ) - 皆様天才です、、読み進めるのが本当に楽しかったです、、! (2020年4月13日 21時) (レス) id: 390861d6bc (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:SM | 作成日時:2020年4月1日 23時

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