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Aはストールを触りながら、「これ、駿貴さんの」と途中まで言いかけてハッとした顔をして口をつぐんだ。
俺の匂いがする？俺の匂いでいっぱいになって、安心して落ち着くような気持ちになる？「俺の？」と首をかしげながら顔を覗き込むと、バツが悪そうに目を逸らして「なんでもなーい」と呟いた。耳の上のほうが赤くなっていて、頬が緩む。
「…それで話ってなあに？」
「そんなに焦るなよ、そんなはやく帰りたいの？」
「そういう訳じゃないよ。気になるだけ」
「いるの？」
「え？」
「待ってんの？彼氏。部屋で」
「……そんな訳ないじゃん」
知っている。こんな週の半ばの水曜日。これまでの付き合いから推測するにAの恋人が会いにくるようなことはまずない。
不規則な生活に合わせること、何週間も会えなかったり、予定変更が普通なこと、いろんな寂しさが彼女の呼吸を苦しくさせている。せっかくの会えた貴重な時間が、不満を言って口論でなくなることが嫌なAは不満を口にしない。そのぶん、俺の前で堪えきれなくて小さく吐くのだ。
彼氏本人に言ってやれ、と思うのだがそれができない彼女を抱きしめることしかできない自分の立場にも嫌気が挿す。「俺なら見えないとことで泣かせたりしないのに」と伝えた数週間前。
「この前の返事聞こうと思って」
「…したよ」
「してないよ」
「じゃあもう一回言うよ」
「…彼がいるから、……ごめんなさいって」
膝に置いた手の甲、爪の先を見ているのか投げやりに彼女は言う。きっと彼女は揺れている。だから、いまこうして車の中で俺とふたりきりでいるんだ。それが分からないほど、こっちだって馬鹿じゃない。視線を合わせようとしないAの俯いた横顔を見つめる。
「俺、まだ待たなきゃだめ？」そう言うと喉仏がごくりと上下した。一緒にいると落ち着く、飾らない自分でいられる。そう思っているのはきっと俺だけじゃない。返答に困って黙っているAに、幸せにする自信あるよ。そう伝えても泣き出しそうな表情は変わらなかった。
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夢野(プロフ) - 楽しく読みました。ありがとうございました！ただただ短編集だと思って読み始めて、sgiさんのお話あたりで、あれ？？ん？？これは？ってなりました。そこからもうワクワクが止まらなくてニヤニヤしてしまいました。ごちそうさまでした！ (2020年4月14日 1時) (
レス) id: bce1609b2c (このIDを非表示/違反報告)
わらべ(プロフ) - 更新お疲れ様でした。企画力もさることながらこの人数での様々な伏線と、その伏線回収には感動さえ覚えました！裏の状況は読者には分かりませんが沢山の人が関わり沢山の時間が必要だったと思われます、お疲れ様でした！そしてありがとうございました！ (2020年4月13日 21時) (レス) id: 9fc6a8ac01 (このIDを非表示/違反報告)
さき(プロフ) - 皆様天才です、、読み進めるのが本当に楽しかったです、、！ (2020年4月13日 21時) (レス) id: 390861d6bc (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：SM
| 作成日時：2020年4月1日 23時
