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「なにこれ？」
「口紅。この間欲しいけど人気で手に入らないってぼやいてたじゃん」
「え！？うそ！？そんないいのに！え、彼女に渡さなくていいの！？」
「彼女いたら俺今ここいないから」
あ、そっかぁ、と彼女は笑った。色は俺が選んだけどいい？いやほんと全然大丈夫、嬉しいありがとう、と彼女は花が咲いたように笑い、それからこう言った、
＊
アメリカへの道中の飛行機、機内食を食べ終えて窓を眺めながらそんなことを思い出していた。
原田が形に残るものをプレゼントしてくれなかったのは、きっと俺が好きでもその先を望んでいなかったから。そして、彼女が何度も一歩先を踏み出そうとしていたのに俺はいつまでもその手を引っ張って、それからいつまでもこのままで、俺のものでいて、そうやって縋って依存していたのはいつだって自分だったのだ。
それなのに自分の気持ちはいつまでも知らんふりをして、ただ絵に描いた桃源郷の存在を信じ続けた愚か者だったのだ。
「私のことなんて忘れてちゃんといい人と結婚して幸せになってね」
無機質な彼女の声に似た周波数の電子音が紡いだ言葉を反芻し、ため息をついた。
何でこんなに近くにあった、大きくて重たいこの感情に気がつくことが出来なかったのだろう。恋と呼ぶには、きっと汚くてどろどろとしすぎた何かに身を沈める。
さようならを告げたその唇は何色だったのだろうか。何の珍しさもない、ただの赤とピンクの中間色で彼女はその声を彩ったのだろうか、
「大谷くんってさ、何でわたしの唇の色に敏感なんだろうね。口紅変えるとすぐ分かるじゃん、」
「いや、唇の色変わったら分かるでしょ」
目は口ほどに物を言うだなんていうけれど、結局ものを言うのは口しかない。彼女と俺を繋ぐのも結局は言葉で、それを吐くのは口で、つまりは、なかなか難しいけどそういうことで、あー、何て表現すればいいんだろう。
『女に口紅プレゼントするのって、アレだよ？なんかキスで返して、みたいな意味あるんだよ、まあアンタだから普通に気利かせてくれただけってわかるけどさ、気のない子にあげたらマジ刺されるからね』
キスで返してだなんて安直だなぁと思った。その声を、その言葉を彩るのはいつだって俺であってほしい、その方がずっとロマンチックなミーニングだ、窓の外の遥か下に見える雲を眺めながら口角を上げた。
(さようならの色が忘れられなくなりますように)
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ほのか????(プロフ) - はじめまして。この小説をシリーズで見ていてハマってしまいました。この前に書かれた大谷さんの小説はありますか？探したのですが見つからなくて、よろしければ、教えて頂きたいです。すみません。 (2019年9月19日 0時) (
レス) id: 2eaac7acc7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：雛* | 作成日時：2018年2月9日 20時
