寄り添う獣達。【zm】 (ページ5)

今日:4 hit、昨日:0 hit、合計:6,582 hit

出会いの話ページ5

.

「痛っい！何すんのよ！！」

カチャンと高い音を立てて落ちる鋏。それを手に取ると私は自分の髪を切った。適当に切ったから長さは肩につくくらいに

手に残る髪の束はあの子に褒められた日と同じように綺麗にまとめられていた

「ヒッ！」

「…小崎はさ、この髪の毛のこと綺麗だねって言ってくれたんだ。いる？」

「ア、アンタ頭可笑しいんじゃないの！？」

「キモイんだよ、お前！！」

「小崎さんがいなきゃ存在価値もないのに！」

投げられる石や荷物が顔に当たって鼻血が出てきた。お腹に当たって声も漏れた。こんなに痛い目にあったのは久しぶりで、私は昔を思い出していた

＿＿＿彼と出会ったのはその時

「なぁ、今何時だと思っとるん？」

バリンッと威嚇するかのように割られたビルの窓。側には緑のフードを被った男が月明かりに照らされて、歯を見せて笑っていた

頑丈なグローブ越しに彼は長い棒を持っている。窓を割ったのも恐らくそれ

「お化けビルでいじめなんて、随分最近の女子高生は元気やなぁ」

行動にそぐわない優しく柔らかな声に何故か私は安心してしまった。

彼が彼女らと何か会話していたのは分かっていたが私の目線にあるのは彼が割った窓。

そこから見える景色は万華鏡のようでもあり、一枚の絵画を見ているような気分になってぐちゃぐちゃになった頭を少しだけ癒してくれた

「綺麗…」

「この景色の良さが分かるとは！さすが、同級生の手思い切り噛んだだけはあるな」

「ぁ…ふ、不可抗力です」

隣に来た彼はその言葉を聞いて心底愉快そうに笑った。
彼は親指で自身の涙を拭っている程笑うと、今度はギョッとした反応を見せた。つり上がっているように見える笑顔も引きつっている

「そんなに大笑いされたの嫌やったん？」

「え？」

「めっちゃ泣いとるから」

窓ガラスを割るほどの力を持つ不思議な男の人。あの子とはまるで正反対の大きい体格であの子より、よく笑う

真反対の彼に私は親友を重ね合わせた。それがとても申し訳なくて、私の目からはずっと涙が零れる

「…お前名前は？」

「ぅ…ぁひっ…、く…Aで、す」

「泣くなら好きなだけ泣いとけばいい、夜はまだまだ長いからな」

そう言って綺麗な景色の中、彼はずっと背中を摩ってくれていた

.