腐臭 ページ9
『――私はあんたに裏切られた!』
小さな一部屋。私はその中心で泣いている。
『どうせ私の事馬鹿にしてるんでしょ! 死んでやる!』
私はカッターを持った女性に縋り付く。
待って、やめて、ごめんなさい、もうしません。ママ、死なないで、ごめんなさい。
何度も叫んで喉が枯れる。
『じゃあなんでこんな事したの!』
私が馬鹿だから。そう答えると、真上から平手が飛んでくる。頭を叩かれる。一瞬だけ目の前が真っ白になる。
『悪い手はどっち!!』
右手、と答える。
叩かれた右手が赤くなり、じんじんと痛んだ。
罵倒がぶつけられる。只々、泣いている。
私はこの光景をよく知っている。
魂に絡みついて離れない光景。
トラウマだが、呼吸は浅くならない。只々涙が流れる。無力感。私は出来損ないの失敗作なのだと思い知らさせる光景。
何故私は此処にいる。二度とこの家に帰ることは無いというのに。
そうだ、これは夢だ。
そう、これはただの悪い夢……。
夢ならば、と目の前の母親をきっと睨み付ける。
云いたかった事の一つや二つを云ってやろうかと口を開いた瞬間。母はおらず、代わりに白い霧が襲い掛かってきた。
何処を見ても白い濃霧。身体が濃霧に呑み込まれるような気がした。先程開いた口の中にまで霧は侵入する。身体中が蹂躙される感覚。
呼吸が出来ない。声が出ない。
ふと、運動会の組体操の練習で、サボテンから落ちた時の事を思い出した。体育館の硬い床に腹を強く打ち付けた時の事を。暫く身動きも取れず、担任からの「大丈夫か」との声掛けには首を振ることしか出来なかったあの時と同じような息苦しさ。
――頼む、早く、早く目覚めてくれ。
不思議の国に迷い込んだ少女のような気持ちで、私は喘ぐ。
*
勢い良く状態を起こす。背中がじっとりと濡れていた。浅い呼吸を何度か繰り返す。
「始まったか」
事実を確認するように呟いた。
軽くシャワーを浴びる。汗が流れ、思考が明瞭化するのが判った。
取り敢えずは、と服を着る。
予備のカートリッジを上着に入れ、愛用の拳銃を
「これだから……濃霧ってほんと嫌い」
私は愚痴を誰に云う訳でもなく零すと、玄関から飛び出す。自動施錠の音を聞くなり、非常階段の手摺を利用しながら飛び降りた。
そして敦君達と合流すべく、探偵社に向かった。
218人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夢秋(プロフ) - 蒼さん» ありがとうございます! 一歩間違えたら夢主ちゃん太宰さんに閉じ込められるくらい無茶してます。早く起きないかなー(どの口が) (6月21日 3時) (レス) id: 9185832e78 (このIDを非表示/違反報告)
蒼(プロフ) - 主人公ちゃんんんん目覚めないと太宰さん泣いちゃうよ!?!?ついでに私も泣くよ!?(?)BEASTめっちゃ好きだけど!!作者様へ神作品です最高ですありがとうございます (6月13日 12時) (レス) @page50 id: 699f0917a9 (このIDを非表示/違反報告)
夢秋(プロフ) - いけるしかばねさん» ありがとうございます! これからしばらくリメイクに入るので実質回想シーン→BEASTで夢主なかなか起きないことになります( ͡ ͜ ͡ ) (2023年2月3日 14時) (レス) id: 28dc9b7eb5 (このIDを非表示/違反報告)
いけるしかばね - ぬあぁぁああ起きろよ主人公!!いやbeastもいいけど嬉しいですけど!!! 続き楽しみに待ってます頑張ってください! (2023年1月31日 16時) (レス) @page50 id: c9b27d8eb7 (このIDを非表示/違反報告)
夢秋(プロフ) - 蒼月さん» ありがとうございます!! イベントとか終わったらぼちぼちリメイクしながら再開します!! (2023年1月24日 2時) (レス) id: 9185832e78 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:夢野秋 | 作成日時:2021年11月1日 2時