モンステラを捧ぐ３ ページ36
取引後。
早速私は、白鯨潜入作戦そして鏡花ちゃんの入社試験の為に特務課の通信室で準備を進めていた。
「太宰君」
「安吾！ 無事治療が済んだようだね」
治療から戻って来た安吾は、心做しかこの間交渉しに行った時よりも顔色が良い気がした。大抵の社員は、瀕死でない時に与謝野さんの治療を受ければどこかげっそりしているのだけど。
「ええ。それに、ここ最近の激務で荒れた胃腸も治療されたのか、車に突っ込まれる前よりも調子が好い。怪我をした事で徹夜から解放されましたし、こうして質の良い治療も受けられて健康的になった。結果的に良かったのかもしれません」
遠い所を見詰めるような目をした安吾に、思わず「うわあ……転職先が探偵社でよかった」と呟けば、「それ僕を前にして云います？」と刺すように見られた。咄嗟に「ナンデモアリマセン」と片言で返して背を向けた。
地味に痛い視線から逃れるべく更に準備を進めていると背後から「そんな話をしに来たのではなく」と安吾に声を掛けられた。
「何かあったのかい？」
「ええ、少し訊きたい事が」
鸚鵡のように「訊きたい事？」と返し、私は手を止めて振り返った。
「先程頂いた見舞品の果物籠、それも高級な……。あれは太宰君の懐から出ているのでしょう？」
「……そうだね」
「それに、あの花束。普段の太宰君なら巫山戯た組合せで来そうなところですが、あまりにも普通だった」
あまりに辛辣な物云いに、「安吾は私を何だと思っているのさ！」と私は今年度何度目かの抗議をしたが虚しく。安吾は私の声など何も聞こえなかったかのように続けた。
「何故それ程までに真剣に頼むのかと思いましてね。一体何が貴方を突き動かすのかと」
その言葉に、私は抗議の手振りを止めた。
「――Aだよ」
少しの沈黙の後、答えた。
「Aさん？」
「Aに云われたんだ。『鏡花ちゃんを頼みます』って。ほら、四年前。あの時私達はAに救われただろう」
「ああ、Aさんへの恩返しですか。だから最大限成功率を上げるために……」
「うん。……これでも恩返しと云うには到底足りないよ。この対組合でも、私達は彼女に助けられ過ぎている」
安吾も通信の準備に取り掛かった。安吾の手伝いによって当初の想定よりも早く整いそうだ。
「それに、Aがこうして私を頼ってくれたのは、初めてなのだよ」
私の言葉に隣の安吾が固まった気配がした。
「初めて……？」
「…………ウン」
私はスンと鼻を啜った。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 416人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夢秋(プロフ) - 百笑咲夜さん» お恥ずかしながらその事実を全く知りませんでした。二次創作自体グレーなものですので、今後お気をつけて楽しい創作ライフを送ってください！ (2023年1月21日 0時) (
レス) id: 9185832e78 (このIDを非表示/違反報告)
百笑咲夜 - 初コメ失礼致します。プリ小説というアプリで活動していた者です。感想じゃなくてすみません。主様の作品とほとんど同じ内容の小説をプリ小説で書いていました。すぐに小説は削除します。大変申し訳ございませんでした。 (2023年1月7日 19時) (レス) id: f1d74042d6 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめのあき(プロフ) - ユキさん» 応援ありがとうございます！ クトゥルフのSANチェックがアレですからね……そして夢主ちゃん、元々勝手に姉を名乗っています。どこかの十人兄弟の長兄のようになってますw (2021年8月19日 21時) (レス) id: e1a96e1817 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - とても面白いです！SAN値チェックがあったの笑いました。「どけ！！！！私はQちゃんのお姉ちゃんだぞ！！！」が好きですｗｗｗ１D１０/１D１００には驚きました。ラヴ君、恐るべし・・・。頑張って下さい！最新待ってます！ (2021年8月19日 21時) (レス) id: c2037b5d01 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめのあき(プロフ) - 夢女子S氏さん» ありがとうございます！！ やったー！！ 頑張ります！ (2021年8月13日 2時) (レス) id: e1a96e1817 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：夢野秋 | 作成日時：2021年8月7日 20時
