すべて重荷を ページ43
港に着けば、敦君と芥川君、そして『白鯨』の異能者メルヴィルが海から上がってきた所だった。敦君は意気消沈と云ったばかりに項垂れ、芥川君は海からゆらゆらと立ち上っている煙を見ていた。
「鏡花……愚か者め。光に生きる希望さえ抱かなければ……自ら散らずに済んだものを」
ああ、善かった。芥川君は鏡花ちゃんの自己犠牲を無駄とは云わなかった。
それでも敦君は言葉にならない叫びを押し殺す様に、地面に着いた手を何度も何度も握り締めていた。
「これで善かったのだよ、敦君」
「太宰さん……」
「鏡花ちゃんは自分に克ち街を救った。探偵社に相応しい高潔さでね。彼女は望みを叶えたんだ」
敦君は太宰さんの云い方に納得いかず、「でも……でも！」とまた手に力を入れた。
「彼女が死ななくちゃならない理由なんて何処にも……！」
「確かに厳しすぎる結末だね」
何故鏡花ちゃんが死んだ事を肯定するかのように返すんだ阿呆、と私は胸の内を燻らせる。態々悲しげな表情をするのを止めて下さい。
私は自力で脱出した鏡花ちゃんを夜叉と共に支えながら、太宰さんをじっとりと見た。太宰さんは、
「でも、そうしなくてはならない理由があったのだよ」
と更に悲しげに目を伏せたが、それは十中八九私の視線から逃れる為だろう。
敦君は太宰さんの言葉に「……？」と眉を下げたが、太宰さんが歩いてきた方向を見ると、歩いて来た人物に目を瞠った。
「社長の異能――『人上人不造』は自分の部下、つまり探偵社員のみに発動する。効果は“異能の出力を調節し制御を可能にする” 制御能力だ。敦君が腕や脚のみならず虎の異能を操れるようになったのは、探偵社に入ったからだ」
腕を組み、じっと何処かを見ている社長の横で、太宰さんはふっと表情を緩めた。
「そして鏡花ちゃんは入社試験に合格した。衝突の直前にね」
太宰さんは顔を私達の方に動かした。
「それが如何いう事か判るかい？」
私は鏡花ちゃんからそっと離れてゆっくりと太宰さん達の側へ回り込む。
敦君はハッと振り向く。その先には夜叉に守られるように立つ鏡花ちゃんが居る。
「夜叉の刀で鎖を斬って脱出した」
その言葉を聞き終える頃には敦君は駆け出し、鏡花ちゃんを抱き締めていた。
あまりに急に、そして存在を確かめるように強く抱き締めたものだから、
「……痛い」
とくぐもった声が聞こえた。でもそれは、通信中に聞いたような絶望の声ではなく、あたたかさに溢れた声だった。
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夢秋(プロフ) - 百笑咲夜さん» お恥ずかしながらその事実を全く知りませんでした。二次創作自体グレーなものですので、今後お気をつけて楽しい創作ライフを送ってください！ (2023年1月21日 0時) (
レス) id: 9185832e78 (このIDを非表示/違反報告)
百笑咲夜 - 初コメ失礼致します。プリ小説というアプリで活動していた者です。感想じゃなくてすみません。主様の作品とほとんど同じ内容の小説をプリ小説で書いていました。すぐに小説は削除します。大変申し訳ございませんでした。 (2023年1月7日 19時) (レス) id: f1d74042d6 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめのあき(プロフ) - ユキさん» 応援ありがとうございます！ クトゥルフのSANチェックがアレですからね……そして夢主ちゃん、元々勝手に姉を名乗っています。どこかの十人兄弟の長兄のようになってますw (2021年8月19日 21時) (レス) id: e1a96e1817 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - とても面白いです！SAN値チェックがあったの笑いました。「どけ！！！！私はQちゃんのお姉ちゃんだぞ！！！」が好きですｗｗｗ１D１０/１D１００には驚きました。ラヴ君、恐るべし・・・。頑張って下さい！最新待ってます！ (2021年8月19日 21時) (レス) id: c2037b5d01 (このIDを非表示/違反報告)
ゆめのあき(プロフ) - 夢女子S氏さん» ありがとうございます！！ やったー！！ 頑張ります！ (2021年8月13日 2時) (レス) id: e1a96e1817 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：夢野秋 | 作成日時：2021年8月7日 20時
