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男は、波板の前にしゃがみ込むと、手持ちのバックパックから手探りで懐中電灯と工具箱を取り出す。慣れた手つきで作業グローブをはめると早速作業に取り掛かり始めた。
工具箱の中には、ソケットレンチにソケットドライバー、ニッパーとペンチ、折りたたみ式の小型ノコギリ……、他にも数種類の工具が収納されているが、どれも基本的な工具ばかりで何かとバリエーションに欠ける。
しかし持ち歩くにはこれで充分で、これが限界なのだから仕方ない。
男は工具箱から小型の釘抜きを手に取ると、波板の四方に打ち付けられた釘を、一本ずつ外しにかかる。
手元にグググッ、と力を入れて釘を引き抜こうとするも、どうやら釘は完全に腐りきっていたらしく、簡単に抜けるどころか、ポキリポキリと折れるほどに脆かった。
あまりに簡単に波板が外れるので、男の表情も幾分か拍子抜けしている。
男は、既に用なしとなった波板を傍に放ると、あいた穴の中を覗く。
真っ暗で見え辛いが、どうやら中は小部屋になっているらしく、ひんやりとした空気が漏れて来るのを感じる。
暗闇の向こうに、自分の探しモノがあると踏んだ男は、握懐中電灯を握りしめ、穴に向けて手を伸ばした。
――明かりに照らされて、しっかりと見えたのは動物の骨。
山のように積み上げられた白い塊。
何の動物かは点でわからない。
しかし――
男の顔は笑っていた。
にたぁっとした笑顔は、心底嬉しそうで、それでいてかなり不気味な笑顔だった。
男は何を思ったか、例の山から骨を一本拝借し、生身のままバックパックの隙間に詰め込んだ。
骨に続いて工具やグローブもバックに仕舞い終え、帰り支度は済んだとばかりに、ゆっくりと立ち上がる。
どうやら男の探し物は、本当に骨だったようだ。
そうと知れば、男が人目を避けることにも肯ける。
男が、味のしなくなったガムを噛みながら銀紙を捨てたことを後悔していたその時、ガタンッ――またもや大きな音。
どうやらダレか来たみたいだ。
退屈そうな顔から一変、面白いものを見つけた子供のように、満面の笑みを咲かせた男は、音のした二階を見つめながら、あの銀色の目をギラリと光らせた。
まるで、獲物を見つけた狼だ。
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作者名：柳 | 作成日時：2018年5月25日 0時
