【声優】最愛を選んだ日【鈴木達央】

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「前野と飯行ったんだってな」

電気が消え、月の光が射し込む部屋。

ベランダからは夜風に乗せて達央さんの吸う煙草の匂いがほのかに香る。


「そうですけど、何で知ってるんですか？」

「前野から聞いた」

それもそうか、と我ながらバカな質問だった。

でもふたりでいるときにわたしの話題が出るなんてなんだか意外かも。にしても、一体どんな話を…。


「…あっ もしかして前野さん何か言ってました？」

話題に出るってことは…

知らず知らずのうちに前野さんに何か失礼なことをしちゃってたとか、達央さんの友達なのに達央さんの許可なく勝手にご飯に行ったことがまずかったとか……もしかしてそういうこと？

考え始めるとあれもこれもと自分の不手際が浮かんでくるような気がしていたたまれない気持ちになった。


「あの…、たつひさ、さん」

質問に対して返事をしない達央さんを不思議に思い、もう一度呼びかけてみたけどやっぱり返事はなくて…ベッドの脇にあった達央さんのパーカーを羽織り、わたしもベランダへと出た。


「ねぇ 達央さん？」

「あっ、あぁ…わりぃ ボーとしてた」

隣まで行ってようやく返事をした達央さんは何か考え事をしてたのかボーとしていたらしく、手に持っていた煙草は長さを失くしていた。


「て、それ俺のパーカーじゃねーか！」

「あったかいですね これ」

「やらねーぞ」

パーカーは本人以上に、達央さんの匂いがする気がして、包まれてる感覚に達央さんへの気持ちがより一層高ぶってしまう。


結局前野さんとどんな話をしたのかは聞きそびれたけど、このなんともたわいない時間が、わたしにはたまらなく愛おしかった。



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