【文スト】黒のエンチャンター

ある転入生の自己紹介 ページ1

横浜市内、閑静な住宅街の中に立つ□□高校の3階、登った階段を右に曲がって直ぐ。

２年Ｃ組の教室の前で、一人の生徒が立っていた。

『今日は皆に紹介する人がいる。』

教師の在り来たりな言葉を扉越しに聞きながら彼は帽子を抑える癖を無意識下にしようとした。案の定それは何時もの場所には無い、自宅のデスクの上だ。空振った手の気恥かしさから、彼は大きく舌打ちした。

『入りなさい』

青春が詰まったその場所に一歩入ると否が応でも感じる、数多の目。

注目されている。

死線を幾度も潜ってきた、そして常に視線を避ける様に行動してきた彼からしてみれば、その注目は酷く気持ちが悪かった。


口を開かなければ割と美男子(イケメン)にカウントされる彼。女子生徒達の注目を集めるのも無理は無かった。しかし、そんな肯定的なひそひそ話も今は彼を苛立たせる要因の１つにしか成り得ない。


「じゃあ君、自己紹介を」


まだ若い教師に促され、黒板のど真ん中に短い石灰(チョーク)で殴り書く四文字。皆の方を振り返った彼は石灰を指先で粉々にしながら言い放つ。



「中原京雅(なかはらきょうが)。

俺は手前らとナカヨシコヨシする気は毛頭ねェ。
それと俺の身長について何か言ったら



殺す。


以上だ。」




最低で物騒な自己紹介をした転入生の噂は画面上を滑る指で即文章化され、電波を介して瞬時に他クラスに回った。

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