【月刊少女野崎くん】世界は一度に動き出す。【番外編集】 (ページ10)

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私を舞台につれてって・7 ページ10

*

「それでは、ええと……」

目の前で緊張しているであろう一年生を、少しでもリラックスさせてあげたい。そう思って、私は少しでも柔らかい口調を意識した。

「問題ありません。他の手続きは先生にしてもらうとして……明日から、放課後は大丈夫ですか？」

「はいっ、大丈夫、です」

「では、それが予定表です。ジャージ持参でお願いしますね」

紹介はまた、会議の時にでもやりましょうか。急に――というのも気が引ける。

真剣に予定表を読む彼女。そういえば、と思い出した。まだ肝心なことを聞いていない。

「班は、どうしますか？一応演出が数人、役者班に大道具班・照明音響とあるのですが」

「班ですか……」

「一通り見てみてから、決めるという手もありますけれど」

「いえ」

はっきりとした口調だった。

思わず驚いた私を見て、彼女は照れ臭そうに目を伏せてからぽつりと言った。

「大道具、がいいです……」

控えめだけど、それでいて、しっかりとした信念のようなものを感じた。

大道具、ですか、と。自然と口元は緩んでしまう。

「では、まず最初に大道具班に行きましょうか。一番に教えられるのは掛け声練習なんですけどね」

「ああ、あの……」

「ご存知でした？誰が言っても譲らないんです、これだけは」

苦笑して、再び彼女の入部届けを手に取る。

それでは、と口調を改めると、彼女は背筋をぴんと伸ばした。

はじまりは、今。

スタートラインが遅いなんてことはない。あっという間に加速して、じきに追いつくこの運命。

今はまだ、走り出したばかりでも。

「あらためて。演劇部への入部、歓迎します。1年B組……」

「かぶらぎ、です」

「ええ」

彼女の名前は。

「副部長の上代Aです。よろしくお願いしますね――鏑木春海さん」

「はいっ」

視線はただ、前だけを向いている。

「よろしくお願いします」

清々しい五月晴れのもと、演劇部に新しいメンバーが加わった。

私を。

『私を舞台に、つれてって？』

*

前回ああきた(参照:劇的日々ノ青春譚)ので、今回はこうきました。これで演劇部は一段落ですかね？

鏑木さんに関してはこんなストーリーがありました。ちなみに鹿島くんへは「憧れ」じゃなくて、ちょっと違う――諦めていた自分を断ち切るきっかけ、でしょうか。そんな気持ちだと思います。

坂巻さんと高木くんは言わずもがな。本当に好きです。

next…She said,“Let's talk with me!!”