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「大したものは無いんだけど、はい」
野坂はAを自身のデスクに着かせ、麦茶の注がれたグラスを差し出した。彼女が受け取るのを見届けてからベッドに腰を下ろす。
「そんなに気を張らなくて良いんだよ」
「誰かのお部屋にお邪魔するのが、初めてなので…」
肩を縮こまらせ控えめにちょんと椅子に座る彼女には、今まで人との交流が無かった。男子寮であること以前に、例えば知人の家を訪問したり、友人宅に滞在することも経験したことが無い。
野坂が女性を部屋に招いたことが無いのと同様、正真正銘、Aにとってこれが初めてだった。
Aの瞳はきょろきょろと世話しなく動く。向かい合うように座った野坂は柔らかな表情でその様子を見つめ、目があって彼女が狼狽えると一層目を細めて言った。
「一年前はAさんがこんな風に部屋に居ることなんて想像しなかったよ」
「一年前…？」
「君の名前を知って、調査を進めた頃。そうしてやっと君が居る病院を特定し連れ出したんだ」
「…じゃあ、悠馬くんと再会してもう一年になるんですね」
感慨深げに呟いて、Aは一年という時の長さを振り返る。しかし十年近くを病院で過ごした彼女にとってその期間は一瞬のようで、また十年が果てしなく長いもののように感じた。
気がつけば彼女の身体はずっと成長して、野坂はいつの間にか大人の男性同然になっていた。
それほどの膨大な時間を失って、自分は何を得たのか。ふとした時、Aの心に浮かぶ問いがある。
「悠馬くん」
「ん？」
「私がもし…実験の成功例になっていたら、悠馬くんと私は、今みたいに一緒に居られなかったと思いますか？」
今の自分だからこそ野坂が側に居る。被験者として後遺症を持ったからこそ野坂は会いに来てくれた。
数々の可能性を失った彼女が得たものは、野坂という大きな存在だ。
「…どうだろう。仮定に正解は無いからね」
野坂はあまり興味が無いと言いたげに話を広げない。柔らかな笑顔に、虚ろな瞳が浮かび上がる。
もしも、自身が特異な人間でなかったら。数ある出会いの中で、野坂は烏丸Aという人間の隣を選んでくれただろうか。
野坂の力を借りずとも生きられるようになったら、彼は。
「なら…私が周りの皆さんと同じ様に悠馬くんの助けを必要としなくなったとしたら、悠馬くんは…どう、しますか？」
それでも彼は、自分の側に居てくれるだろうか。
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橋本アリィちゃん(プロフ) - とても面白かったです！続きを待ってます！(*´ω｀*) (2021年11月3日 4時) (
レス) @page43 id: 1849d0f1e6 (このIDを非表示/違反報告)
輝(プロフ) - かなりさん» お返事送れてすみません。いつもコメントありがとうございます！(* ´ ▽ ` *)今後も楽しんでいただけると幸いです。 (2020年7月7日 0時) (レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 更新おつかれさまです！もうドキドキして、ついにしたな〜と思いで嬉しい気持ちでいっぱいです！！これからの、展開がどうなってくるか、楽しみです！！これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年6月21日 13時) (レス) id: 49621f134d (このIDを非表示/違反報告)
輝(プロフ) - かなりさん» コメント毎回ありがとうございます！元気に過ごしてますよー、かなりさんも体調に気を付けて！応援に答えられるよう、頑張ります(*^-^) (2020年6月20日 11時) (レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 更新おつかれさまです！最近体調はいかがですか？私は、この小説がずっと大好きで、心が救われる小説です！！このご時世大変な時なので、あまり無理しないで下さい！これも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年6月18日 15時) (レス) id: f70c6ae0d8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：輝 | 作成日時：2020年5月2日 12時
