▽ ページ46
悠馬くんへ
こうして手紙を書くのは初めてですね。
今更になってもう遅いかもしれませんが、あなたに感謝の言葉を伝えたいです。
私は、長く自分の記憶を失っていました。
ぼんやりと何かを思い出せそうな時もありましたが、はっきり浮かんでくることはありませんでした。
同じように、何かを感じたり考えたりできず長い時間を過ごしていました。今思えば、とても不思議な感覚でした。
テレビか何かで映像を見ているような、私はその世界から切り離された場所に居て、画面の向こう側に居る人と会話も出来ないのです。
ですがある時私は、長い間閉じ込められていたその場所から出してもらえました。
目の前の人が私に笑いかけてくれる。その時、私が暗い部屋の外に出ることができたのを知りました。途端に世界が明るくなりました。
誰かが会いに来ると段々私の体が形を帯びて、少しずつ外との繋がりを感じられるようになりました。
野坂さんは私がこうして回復できた一番の理由です。
彼は会いに来るたびお菓子を持って、私にお話をしてくれました。上手く話せない私にノートをくれました。大切な宝物です。
会えない日が続くと寂しくて、会いに来てくれる日が待ち遠しいと思いました。
ある日私はずっと忘れていた沢山のことを思い出しました。お父さんを見た日のことです。
思い出せていないこともまだあるかもしれません。でも私は施設にいた時の記憶を取り戻して、以前の私が何不自由なく過ごしていたこと、そんな私がなぜ病院にいるのかを知りました。
そして、あなたの存在を思い出しました。私が側に居ることを拒まなかった、泣いていた私を救ってくれたあなたのこと。
あの幸せとあなたが教えてくれた名前が、野坂さんと重なった時どうしようもできなくなってただ涙が溢れました。
ごめんなさい。私はあなたを忘れていました。なのに、あなたはまた私を助けてくれました。本当にありがとうございます。
あなたと再会できた幸せ、過ごした毎日のことをもう忘れません。
もう一度悠馬くんと呼ばせてくれますか？
一行一行に溢れた彼女の想いが僕の表情を頼りないものにする。
思考も言葉も追い付かなかった。胸の奥から熱が沸き上がってくる。同じ記憶を君と共有している幸せが溢れる。
僕も君に僕の名前を呼んで欲しい。いつになっても、どれだけ待ったって構わないから。
今度は笑顔で答えたい。僕も君の名前を呼んで、そして、
「悠馬、くん」
そして。
ラッキーカラー
あずきいろ
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 74人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
かなり - 私、輝さんの小説が大好きでいつも読み返していて、勇気をもらっています！これからも体に気をつけて頑張って下さい！応援しています！ (2020年4月26日 20時) (
レス) id: 698341d95b (このIDを非表示/違反報告)
輝(プロフ) - かなりさん» 沢山のコメントありがとうございます！本当に励みになります(*^^*)かなりさんも、どうか体調にお気をつけて過ごしてください。 (2020年4月26日 18時) (レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - この小説は、私を感動させてくれる小説です！この小説を作ってくれてありがとうござます！これからも体に気をつけて頑張って下さい！応援しています ！ (2020年4月20日 11時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - もお、続きが気になり、この後の展開が気になり過ぎて、ドキドキしながら読んでいます ！(≧∀≦)これからも、体には気をつけて、頑張って下さい！応援しています。！ (2020年4月14日 21時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - コメントありがとうございます。これからも頑張ってください (2020年4月10日 14時) (レス) id: dd5b3632db (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：輝 | 作成日時：2019年8月8日 23時
