第五章 ｾｯｷﾝ ページ22
寝不足は避けられなかった。少し瞼に重みを感じながら、野坂は通い慣れた道を歩いた。
こちらから指定した時間に、病院前のベンチで待っていると看護師さんから言われている。スマホで目的地までの地図を確認しながら、彼女が待つ場所へと歩を進めた。
彼女を探す必要などなかった。正面の入口に入ったところで顔を上げると、洋服に身を包んだ彼女が視界に飛び込んできた。
野坂は止まろうとする足を踏み出す。小さく息を吸い込んで、彼女がこちらに気付いたのを見計らいひらりと手を上げた。
「おはよう、烏丸さん」
隣には、見送りに来た看護師が居た。返事の代わりに彼女が立ち上がる。誰に選んでもらったのか、一般的な女性が好んで選ぶような、繊細で柔らかい色合いのワンピースが揺れた。
「素敵だね。似合っているよ」
呆れるほどに、型にはまった言葉。この台詞を口にすれば、大抵の女性が喜んで笑顔を浮かべる。想像の範囲内のことだった。
彼女も勿論例外ではない。控えめな、愛らしい笑顔が口元に浮かんだ。
そして予想に反して、野坂の心臓の音が大きく響いた。居心地が悪いような、そんな感覚を覚えた。
何故か、彼女から逃げるかのように視線が揺れた。誤魔化すようにわざとらしく腕時計に視線を落として、野坂は微笑んだ。
「じゃあ、行こうか」
歩く野坂のすぐ隣に、一歩ずつ確かめるように足を進める彼女。デジタルマップが想定する到着時間に到着できる筈はない。それは計算済みだった。
全てを考慮した上で決定した集合時間。狂いはない。
人が賑わいだす大通りで、彼女は怯えたように足を止めた。大勢の人を目の前にした経験があまりにも少なすぎるせいだろう。
野坂は長い睫毛の奥で不安げに揺れる瞳を覗き込んだ。自分のペースを取り戻す機会だと判断した。
「危ないから離れないでね」
そっと彼女の手を取る。その掌はじわりと野坂の手を温めた。彼女が握り返すことはなかったが、決して野坂から離れようとはしなかった。
野坂は少しの息苦しさを隠し、その華奢な手を離さないよう包み込んだ。
ラッキーカラー
あずきいろ
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かなり - 私、輝さんの小説が大好きでいつも読み返していて、勇気をもらっています！これからも体に気をつけて頑張って下さい！応援しています！ (2020年4月26日 20時) (
レス) id: 698341d95b (このIDを非表示/違反報告)
輝(プロフ) - かなりさん» 沢山のコメントありがとうございます！本当に励みになります(*^^*)かなりさんも、どうか体調にお気をつけて過ごしてください。 (2020年4月26日 18時) (レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - この小説は、私を感動させてくれる小説です！この小説を作ってくれてありがとうござます！これからも体に気をつけて頑張って下さい！応援しています ！ (2020年4月20日 11時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - もお、続きが気になり、この後の展開が気になり過ぎて、ドキドキしながら読んでいます ！(≧∀≦)これからも、体には気をつけて、頑張って下さい！応援しています。！ (2020年4月14日 21時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - コメントありがとうございます。これからも頑張ってください (2020年4月10日 14時) (レス) id: dd5b3632db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：輝 | 作成日時：2019年8月8日 23時
