第三章 ﾒｻﾞﾒ ページ14
『ありがとうございます』
『うれしいです』
言葉が、罫線に倣って並んでいく。一文字一文字が形作られる度に体が熱を帯びていく。
陶器のような腕をなぞり、少女の表情を確認しようとする。そこにいる彼女は、桜色の唇を閉じたまま静かにノートを見つめていた。
響くのはボールペンのペン先が転がる音。それ以外、野坂の耳には届かなかった。
『おはなしできますね』
所詮それはひらがなという音が並んだものに過ぎず、それに伴う感情も意味も、自身の中で勝手に創り出される想像だと言える。
しかしこれは確かに彼女の言葉であって、野坂はこの瞬間、初めて彼女の意思に触れたのだ。
「…そうだね。やっと君と話すことが出来る」
宝石のような瞳が、カーテンの隙間から差す光を受け輝る。無機質にさえ感じる端麗な顔立ちの奥に、彼女は居る。
無性に恋しくなった。ただ独り、他人を求めて涙を流し続けた彼女が。
ただ一人、あの負の色で満ちたどん底で野坂と言葉を交わしてくれた彼女が。
全身の熱は、暫く引かなかった。彼女の瞳はむしろ更に熱を煽った。
「何か話したいこと、聞きたいことはあるかい？」
誤魔化すように一言。彼女は握ったままのペンを一旦置いて、野坂の瞳に視線を向け離さなかった。
なんの予兆もなくふっと彼女の顔がノートに向けられたと同時に、野坂は熱の発生源である心臓を落ち着かせようと、静かに大きく息を吸った。
不甲斐ない。何故か大きく揺さぶられている。今度はほどいた脚に肘を付き、目頭の辺りを指で押さえる。
彼女の手元から言葉を生む音が消え、野坂は顔を上げた。
『プリンおいしかったです』
「…そっか。それは良かった」
続けて彼女の手が動く。本当に会話をしているような気分だった。
『のさかさんのおなまえ、ききたいです』
「…貸して」
野坂は椅子から立ち上がり、ベッドに腰を下ろした。大した移動ではない筈が、予想以上に彼女との距離が縮まる。
彼女の手からボールペンを借り、野坂はノートに自分の名前を書いた。丸いひらがなの中にある漢字は、妙に浮いて見える。
『野坂悠馬』
「僕は
改まって自己紹介するのは初めてだった。そういえば彼女は、野坂の下の名前も、名前自体どう書くかも知らなかったのだ。
すぐ傍に居る彼女。野坂の指先が何故か疼いていた。その理由など、彼が知るはずはなかった。
ラッキーカラー
あずきいろ
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かなり - 私、輝さんの小説が大好きでいつも読み返していて、勇気をもらっています！これからも体に気をつけて頑張って下さい！応援しています！ (2020年4月26日 20時) (
レス) id: 698341d95b (このIDを非表示/違反報告)
輝(プロフ) - かなりさん» 沢山のコメントありがとうございます！本当に励みになります(*^^*)かなりさんも、どうか体調にお気をつけて過ごしてください。 (2020年4月26日 18時) (レス) id: c19a41cb32 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - この小説は、私を感動させてくれる小説です！この小説を作ってくれてありがとうござます！これからも体に気をつけて頑張って下さい！応援しています ！ (2020年4月20日 11時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - もお、続きが気になり、この後の展開が気になり過ぎて、ドキドキしながら読んでいます ！(≧∀≦)これからも、体には気をつけて、頑張って下さい！応援しています。！ (2020年4月14日 21時) (レス) id: 591368bcea (このIDを非表示/違反報告)
かなり - コメントありがとうございます。これからも頑張ってください (2020年4月10日 14時) (レス) id: dd5b3632db (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：輝 | 作成日時：2019年8月8日 23時
