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食料品売り場を私とノートン君は歩いていた。買い物かごはノートン君が持ってくれている。私が持つと言っても無視されたからだ。
時おり、ノートン君は数字を指さしながら「高い？」とか「相場は？」とか聞いてきた。私はそこまで買い物慣れしているわけではないから、出来る限りの範囲で応えた。
私のつたない解答を聞くだけでノートン君は判断して、買い物かごへ野菜や魚を放り込んでいく。
『ノ、キャンベルさん。買い物慣れしてるんですか？』
「別に。必要だから覚えた時があっただけ」
相変わらず端的な返事だ。
何か、ノートン君の知られざる部分が分かるかと思ったのだが……。自分のSANチェックを免れたようでホッとし、知りたかった好奇心も沸いてきた。結局、何だか残念だなと言った感情で落ち着いた。
「ねぇ、シバサン」
ノートン君と反対の棚を眺めていると、そう問いかけられた。
声に反応して彼の顔を見ると、買い物かごが似合い過ぎて嫌になった。イケメンかよ。何だこの、出来る男感。彼を”陰キャ”とか言ったの誰だよ。
「苗字で呼びにくいなら名前で呼べば。気にしないけど」
距離をつめられた！？！？
あの寡黙で、精神不安定で、エマちゃんをもって付き合い方に難ありと言わせたノートン・キャンベルが？！
「聞いてる？」
『は、はいっ！』
嬉しすぎて、私は人目もはばからず大声を上げてしまった。周りから視線がっ俊だけ集まり、ノートン君が居心地の悪そうな顔をした。
私は買い物客にひょこひょこと頭を下げた。
『ほ、本当に名前で呼んで良いんですか？』
「いいよ。何だと思ってるの、僕のこと。
……それにシバサン、僕の名前を呼ぶたびに”ノ”って言って煩いし」
また何だか貶された気がするが、気にしない。
『じゃ、ノ、ノノノ、ノートンさん！』
「……」
一世一代の告白のような心持ちで、私はそう口にした。
パソコン前で推しの名前を呼ぶのとは違う。目の前に返事をする人がいるのだ。恥ずかしいことこの上ないし、名前で呼んでいいとか嬉しすぎる。
私がにへにへしながら彼の名前を呼ぶと、彼はドン引きした表情をする。ノートン君の不機嫌顔は慣れてないからかと思っていたが、どうやら私自身に問題があるみたいだ。
「顔、気持ち悪いよ」
『えへへ、すみません。すみません』
私が閉まりの無い顔でそう言うと、彼は面白そうな顔をした。珍しい、と目を見張ったが、その表情は一瞬で消えてしまった。
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