29 煙草の匂い ページ29
・
頬を伝う涙が、地面に落ちたとき。
ふわっと体が浮いて、空に近づいたとき。
喉がひゅるりと鳴って、息が止まった。
落ちてくる雪から、目を逸らせなかった。
視界がぼんやりと涙でくもる。
YG「……ライター持ってねぇ？」
胸が痛くて、苦しくて。
漏れだす嗚咽が、止まらなかった。
「持ってない……っ」
カタンと体が地面に着地する音がした。
ふわりと香る、煙草の匂いがした。
頬を撫でる乾いた掌は、私が知っている温もりだった。
YG「遅くなってごめん」
訊きたいことはたくさんあった。
死んじゃったんだと思っていた。
どうして腕にギプスをはめてるのかも、長い間離れすぎていたせいで何もわからなかった。
YG「愛してる」
だけど、そんなことどうだっていい。
涙で濡れた私の唇に、優しいユンギの唇が触れる。
少し無愛想だけどあたたかい、変わらないキスに涙がとめどなく頬を伝った。
もう離れたくない。
もう失いたくない。
貪るように、繋ぎ止めるように彼を求めた。
彼がくれた「愛してる」の言葉に応えられるように、手を伸ばした。
「ユンギ……っ」
名前を呼ぶと、触れていた唇がゆっくりと離れる。
舞い落ちる本物の雪に同化してしまうようなその白髪も、消えてしまいそうなほど透き通ったその白い肌も、小さな黒いその瞳も。
たしかに私の目の前に存在する彼の全てが、たまらなく愛おしかった。
「私ね、ユンギがいないと生きてけないの……っ」
ユンギがいない日々。
そんな日々が本当にあったこの数ヶ月間を思い返せば、またぼろぼろと涙がこぼれる。
「私、ユンギのヒヨコだから。だからユンギしか目に入らないし、ユンギしか追いかけない……っ」
ユンギが置いていった映画のワンシーン。
生まれたばかりのヒヨコがいつまでも少年を追いかけるあのシーンが、私はあの映画の中で1番好きだった。
2人でいた毎日を、1番思い出させてくれたから。
YG「……それを『愛してる』って人は言うんだよ」
ユンギが薄く笑って私の涙を拭う。
頬に添えられた手を握れば、もう一度優しく唇が重なった。
「愛してる……愛してるよ、ユンギ」
YG「ん。俺も」
私たちはもう捨て猫なんかじゃなかった。
・
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 110人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「BTS」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
寧桜(プロフ) - アオイさん» 一気読みだなんて！ありがとうございます(´∀｀*) (2020年7月14日 21時) (
レス) id: d17dad552a (このIDを非表示/違反報告)
アオイ(プロフ) - 凄く素敵な作品でイッキ読みしてしまいました！こんないい作品に出会えて良かったです！ (2020年7月14日 19時) (レス) id: eff5f40333 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：寧桜 | 作成日時：2020年6月27日 23時
