22 余計な期待 ページ22
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ユンギが姿を消して、もう数週間が経つ。
律儀に残されていた書置きと失くなっていた灰皿が、余計な期待さえ抱かせなかった。
いつかは終わるとわかっていたのに、その日は息ができなくなるほど泣いた。
YG『……今日もしかしたら帰れないかも』
『……へー』
YG『これ、おまえが好きな小説の実写化。暇なら観とけば』
『実写化反対。でも観て欲しそうだから観といてあげる』
YG『……うぜぇ』
歯ブラシも、大きな黒の手提げ鞄も、よく吸っていた煙草も、灰皿も。
ひとつ残らず持っていったのに、あの日ユンギが借りてきたDVDだけは変わらずこのリビングにあった。
延滞してたから返すのが嫌だったのかもしれない。
ユンギらしい理由を考えながら、挟まったレシートのもう1ヶ月も前になる返却日を見つめてまた泣いた。
「……やっぱりこのヒロイン、全然可愛くない」
文句を言いつつ、結局何度もその映画を観た。
返してはすぐ借り、返してはすぐ借り。
それが私が触れることのできる、唯一のユンギとの思い出だった。
＊
「この前の方が美味しかったなー……」
たまには背伸びをして、瓶ビールを買って飲んだりもした。
日曜日のお昼に窓際であぐらをかいて、外を眺めて。
あの日のユンギは何を見つめてたんだろう。
そう考えながら、もちろんラッパ飲みをした。
YG『おまえの存在自体が、おまえの親がおまえに注いだ愛情のしるしだろ』
いつのまにか日が暮れていて、瓶を掴んでソファに横たわった。
最近はもっぱらソファで眠ることにしている。
ベッドに潜るとどうしてもユンギを思い出して、不眠症になったように眠れなくなるからだった。
「……ねー、ユンギ」
会いたいよ。
「寂しいんだってば……」
ぼんやりとした言葉はなびくカーテンの向こうに隠れて消えていく。
遠く遠くに走る電車の通り過ぎる音が、いつまでも頭の中で響いていた。
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寧桜(プロフ) - アオイさん» 一気読みだなんて！ありがとうございます(´∀｀*) (2020年7月14日 21時) (
レス) id: d17dad552a (このIDを非表示/違反報告)
アオイ(プロフ) - 凄く素敵な作品でイッキ読みしてしまいました！こんないい作品に出会えて良かったです！ (2020年7月14日 19時) (レス) id: eff5f40333 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：寧桜 | 作成日時：2020年6月27日 23時
