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…ありえない。
本来なら俺が握るはずだった主導権を、なんで彼女が握ってる。
黒い礼服に裏地が赤いマントをつけて、骸骨のようにあしらわれた仮面をつけると、俺は自分で自分が誰なのか、まるで分からなくなる。
吸血鬼のようですね、と隣に立つジュンギが呟いた。
「彼女はどこへ消えた」
「わかりません。今、護衛たちが探しております」
「……」
さっきまでは俺のそばにいたはずなのに。
白いドレスに身を包み、白銀の仮面をつけた彼女は、俺とは正反対、さしずめ女神といったところだろうか。
そんな風に見えた。
こんなパーティーに出ること自体そもそもそんなに好きではないのに、古いしきたりだから仕方がないとかなんとか開くことになって。
開いてみれば当然そばを離れないと思っていた彼女はたちまち姿を消してしまうし。
別に彼女にそばにいてほしいというわけでもないけど、その身勝手な振る舞いが相変わらずで、憎らしくて。
「連絡が入りました。陛下はテラスにいらっしゃるようです。迎えに行きましょうか？」
「ん」
ジュンギに案内されて、人でごった返した広間を縫い進む。
誰も俺が新しく王になる男だなんて知らないから、かえって動きやすかった。
ガラス張りの窓に仕切られたバルコニーのそばまでやってくると、その向こうに彼女が見える。
“おい”
そう声をかけようと思ったのに、それは彼女の弾んだ声に阻まれた。
「ふふ、やっぱり似てますね、わたし達」
「前にもあったことがあるかもしれないですね」
「うん、そうかも」
彼女は誰か、俺の知らない男と話していた。
俺が未だかつて見たことがないほど、いや、俺がかつて見ていた彼女の楽しそうな声。
でもそれは、決して俺に向けられていたものではなくて。
彼女が唯一無邪気に笑いかけていたのは……、
「…ヒョン……？」
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作者名：寧桜 | 作成日時：2018年10月22日 19時
