繚乱の愛、一輪の愛 (ページ6)

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『あ、もしもしジン？』

『うん』

真夜中も真夜中、ちょうど日付が変わろうとしていた頃、僕は夜勤の時間を終えて帰宅したばかりだった。

『明日の舞踏会なんだけどさ、女のコと約束入っちゃったから代わりに行ってくんね？』

『…はい？夜中に電話してくること？それ』

『ねえ行ってくんね？』

『いや僕の話聞いてた？』

愉快そうに電話越しに笑い声をあげるボゴムは、もしかしたら酔っていたかもしれない。

うん聞いてたけど、と勝手に言葉を続けるボゴムは、やっぱり僕の話なんて聞いていなかったに違いない。

『仮面舞踏会だしさ、本人じゃなくてもバレないっしょ。衣装やなんやかんやはあげるから』

『…はあ』

『ねえ、いい？お願い！』

ボゴムは同僚として出会った数少ない友人のうちの一人だ。

僕は志願してこの古びた小さな町の城の護衛につくことができたけど、ボゴムは違う。

ボゴムは僕とは違っていいとこの御坊ちゃまだし、きちんと士官学校も卒業している。

ボゴムが望めばもっと地位の高い少尉くらいにはなれたはずなのに、彼は現在、こうして僕と一緒に小さな城の守りを固めている。

前にその訳を訪ねてみたとき、ボゴムは笑って大した理由はないと答えた。

変わったやつなのだ。

『…はあ』

『いいの？ありがとう！』

『いや、だからまだ僕返事してなっ…』

『じゃあ明日よろしくね！』

『あ、ちょ、おいっ』

そう、ボゴムは変わってる。

別に悪いやつというわけではないんだけど、ただその、優秀な御坊ちゃまでイケメンで、と、何もかも手に入れすぎたせいか、ちょっと人の話を聞かないところがあるというか。

さっきの話にもあったように、ちょっと女性関係にだらしがなかったりだとか。

「…………はあ」

もう二度と、踏み入れることはないと思っていたこの城の大広間。

仮面のせいで少し陰る目元だけど、あの頃の想い出があるから。

僕はきちんと、細部までよく覚えてる。

今はもう手の届かないところに行ってしまったあなた。

僕たちがもう一度出会うことを、きっと神さまは許してくれないんだろうな。

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