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「A様こそ泣かないでください」
「へへ、ごめん。わたしもあまりに幸せで」
「ふふ、やっぱり」
「…変わってないと思った？」
「え？」
「相変わらず泣き虫だなぁって」
「んんー…」
「ねえジン、」
涙を拭うと、彼女は僕の脇を通り過ぎてぱちんと部屋のランプを消した。
窓硝子の向こうから射し込む星明かりと月明かりが、幻想的な景色をつくりだす。
「お願いがあります」
「ふふ、これ以上なんですか？」
「わたしを、その、」
急にもじもじと恥ずかしそうにドレスの端を掴んで俯くA様が罪なくらいに可愛らしくて。
「なんですか？」
彼女が言いたいことはなんとなくわかるし、彼女は僕の主人だけど。
「だからぁ……」
ついついイジめたくなる。
「わたしを、ジンでいっぱいにしてほし…い…とか……その、…」
「ハグしたらいいですか？」
「……いじわる」
「ふふ」
「もういいよ、帰ろ」
ドアに駆け寄る彼女の手を引き止めて抱き上げると、彼女はちょっとジン、とびっくりしたような声を上げる。
優しくベッドに下ろしてあげると、うるうるした瞳で僕を見上げてきて。
「僕に、A様をくださいますか」
僕の言葉に真っ赤に頬を染めるあなたが、もう昔の可愛らしいお転婆娘に見えないから困る。
「…優しく、してね」
「ふふ、無理かも」
「あっ、ちょっとジンっ」
ねえ、A様。
「んっ……はあ………ぁん」
僕は怖いよ。
こんなに近くにいて、こんなにも僕を求めてくれるあなただけど。
明日、目が覚めたらもうあなたは僕の手が二度と届かない存在になっているんじゃないかって。
終わりは案外、目の前じゃないかって。
彼女の中に自分を埋めると、可愛らしい声で僕の名前を鳴く彼女に、どうしてか涙が溢れてくる。
「や……ジン…っんぁ………やぁ」
「A……っ様…」
「ジン……っやら………んんっ」
辛そうに顔を歪ませる彼女が、そっと僕の背中に腕を回す。
白くて柔らかな彼女を抱くのは、まるでこの世には存在していない天使を抱くみたいで。
「愛してるっ……A…」
僕らは忘れたくない “今” を、失いたくない “今” を貪るように、互いを求めた。
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作者名：寧桜 | 作成日時：2018年10月22日 19時
