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「……そろそろ戻らなきゃ」
「………、」
「 “石の女王” と、1人の護衛に」
A様は僕の胸から顔を離すと、僕を見上げるようにしてそう微笑んだ。
涙を目にいっぱいに浮かべるけれど、懸命に泣くまいとするその姿に、彼女をもう一度強く抱きしめたいと、その唇に優しく口づけたいと、そう思うけど。
「…はい」
少しずつ “女王” の顔に戻りつつあなたに、僕はただ返事をすることしかできない。
僕の胸から離れていく手に、思わず涙が零れそうになる。
すれ違いざま、彼女の唇が微かに動いた。
「ジン、」
「…はい」
「……生きててくれて、ありがとう」
「………っ」
振り返ると、彼女はもう一歩、城への道を歩き出していて。
僕の胸の中にいた小さなか細い彼女のはずなのに、今はもう、その背中は凛とした、強い女王の気品を漂わせている。
「…女王っ」
「…っ」
思わずその背中に声をかけずにはいられなくて、叫ぶと彼女は足を止めた。
「明日また、散歩に出かけませんか」
あの頃だったら、こういうのはいつだって、あなたからだった。
“ねえジン、城を抜け出そう？”
“ジン〜！鬼ごっこしよう！”
“ジン、怖い話好き？”
僕から誘うことはなくて、僕は寧ろ、あなたにはもっと勉強や習い事をきちんとしてもらわなければいけない立場だったから、仕方なくあなたのわがままに付き合っていた感じで。
あの頃は、そう思ってたんだけど。
離れてみて、失ってみて浮かぶのはいつだって、野原を駆け回り、大声で歌っては笑うあなたで。
意外と僕も、ああやってあなたと無茶するのが好きだったんだな、なんて思う。
だから。
「また僕と二人で、明日」
今度は僕から誘ってみようと思う。
少しでもあなたが笑える瞬間がそこにあるというのなら、僕だってあなたのように、ちょっぴり無茶したっていいじゃないか。
「…………」
彼女は少し顔を逸らして僕の方を見ようとしてから、もう一度きちんと前を見据えて、歩き始める。
返事はない。
そんな彼女の背中を、少し早足で追った。
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作者名：寧桜 | 作成日時：2018年10月22日 19時
