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あれは僕がA様に仕え始めてちょうど一ヶ月ほどが経った頃だった。
「…ジン……」
あなたは泣いていた。
いつだって明るくて、無邪気に笑い転げていたはずなのに。
今まで専属の教師をつけて学んでいたものの、社会と触れさせた方がいいという周りの考えから、初めて学校というものに出かけた帰りのことだった。
わたしにも初めて友達というものができる、と行くときはあんなにも嬉しそうで、楽しみにしていたのに。
「わたしの目は変なの？おかしいの？気持ち悪い？」
泣きじゃくって僕の顔を覗き込むあなたの瞳はたしかに珍しい紫の色をしていた。
でも僕は、そんなあなたの瞳を綺麗だとしか思ったことがなかったから、正直あなたがそれを理由に泣いているのにとても驚いて。
「スミレ様、はいかがですか？」
「…え？」
「僕も王女にあだ名をつけて差し上げたくて。王女が僕をジンと呼んでくださるように」
「………」
「王女の綺麗な瞳はスミレの花によく似てますから」
僕のその言葉に、あなたが本当にスミレのように、小さく、可愛らしく微笑んだのを、僕は今でもよく覚えている。
それからだったかな。
あなたが僕に、よく泣きつくようになったのは。
あなたがなにかに傷つき、なにかに耐えているとき、あなたは必ず深く歯をくいしばる。
僕がそんなあなたに気づいて話を聞くと、あなたは決まって僕に抱きついて泣き出して。
“ジンはいつだってわたしの味方だもんね”
あなたは涙を拭ったあと、いつもそう繰り返していた気がする。
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作者名：寧桜 | 作成日時：2018年10月22日 19時
