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「…ヨン………ヨンっ」
あれは土砂降りの雨の日だった。
ヨン様は、普段から民と関わることを欠かさない方で。
街に出ては商売をする商人と言葉を交わし、家を持たない子供たちの話を聞いて、食べ物を与えてやる。
それが、自分の命を奪うこととも知らずに。
『ソクジン、大丈夫か？』
『はい、少し咳き込むだけです』
その日僕は、少し風邪気味で。
多分、とてつもない高熱を抱えていたと思う。
『何言ってるんだよ。風邪でも引かれたら僕の退屈に付き合ってくれる友はいないじゃないか。今日は早く帰って休むといい』
『……ありがとうございます』
あまりの体のだるさと辛さに、ヨン様の優しさに甘えることにした。
でも。
今ではあのときの判断を、僕は間違いだったと思っている。
僕があのときあの場で、ヨン様のそばを離れなければ。
ヨン様が命を落とすことはなかったのかもしれない。
「ヨンっ…ヨン、お願い、帰ってきて！」
「…………お兄さま？」
冷たくなったヨン様のそばに跪き、その白い手を握っていたのが妹のA様だった。
ぼろぼろに泣き崩れる女王の肩を抱いて、しっかりと立ち上がった彼女。
人々が涙するなか、彼女一人だけ凛とした佇まいを崩さずに優しく微笑んでいたのを、友であり主人であるヨン様を守ることのできなかった自分が許せなかった僕は、少し不快に思ったのを覚えている。
家族でしょ？
慕っていた兄じゃないの？
なんでそんなに笑ってられるんだよ、って。
僕がお守りできなかったのに、そんな僕を誰も責めてはくれなくて。
誰かに憎まれる方がずっと楽だったのに、残酷にも僕は寧ろ人々に慰められ、盛大な告別式が終わると、今度はA様の付き人になった。
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作者名：寧桜 | 作成日時：2018年10月22日 19時
