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「ねえジン、」
「…ん？」
「………ううん、なんでもない。ごめん寝ていいよ」
「…うん」
ボゴムが何も言わないのは、何を言ったらいいかわからないからだと思う。
何があったとかを、詳しく話したわけじゃないから。
でも、よくよく考えれば別に、話すようなことは何一つないんだよね。
当たり前のことが当たり前に目の前で起こっただけのことで。
それを受け入れられない僕が、勝手に傷ついて、こうして腐ったような毎晩を過ごしているだけで。
こんな夜から抜け出せる日が来るのを、僕はまだ、想像できずにいる。
実際問題、離れてみて、現実を見せつけられてわかることっていうのは思ったよりも多いみたいで。
目をそらすのは簡単でも、忘れるのは簡単じゃないみたい。
目を閉じれば今でも、小さい頃のあなたから、少し大人びた仮面の中のあなたまでが鮮明に瞼の裏に映り込む。
かと言って僕は、忘れるのが幸せだとも思わない。
どれだけ辛い記憶でも、悲しい記憶でも、忘れてしまったらなんとなく、ダメな気がする。
「ジン、迎え来たから起きて」
「うん起きてる。ありがとう」
ボゴムに支えられて店を出ると、いつもよりも暗い夜に空を見上げた。
いつも月だけを見ているからかな。
気づかなかった星々が、小さく、それでも精一杯に自分の光を届けている。
「新月か…」
「そうみたい」
「…神秘的だな」
「うん」
迎えに来た黒い車に乗り込んで、流れる車窓を見つめた。
家々に灯る明かりがいつもよりも眩しく見える。
月が太陽に及ぶことはないけど、月がなくては夜は暗すぎる。
でも。
そんな月よりもちっぽけな星さえ、なくては夜が闇に閉ざされてしまう。
僕は、星を胸に秘めながらも、やっぱり月を愛していたい。
そう、うつらうつらする頭の中でぼんやりと考えた。
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作者名：寧桜 | 作成日時：2018年10月22日 19時
