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「わかってんじゃん」
変わらない表情に怯え始めている自分が自分で悔しい。
「…まだあの日のこと恨んでるの？」
ふいに、彼女は目を伏せて尋ねた。
“あの日”
いくら “石の女王” になったとはいえ、そのことはきちんと覚えているらしい。
それでも、緩く弧を描いたまま動かないその口元が気に入らなくて、引き金に指をかける。
「黙れ」
「誰に向かって言ってるのかしら」
「死んでもいいわけ？」
「別に。でも…」
あまりに刹那の出来事で、追う目と頭が追いつかなかった。
いつのまにか彼女は体を反転させ、自分の左耳の上に押し付けられていた銃を胸元にあてがって。
月光に冴える妖しい菫色のその瞳で、俺を見つめている。
「今はやめといたほうが賢明ね」
くすり、本当にそんな音が漏れそうな笑みを零して、彼女は両手で心臓に当てた銃を握りしめた。
「この部屋の周りには何人の護衛がいると思って？
今あなたが撃てば、わたしはきっと確実には死なないし、あなたは反逆者として捕らえられ、間違いなく首を切られる」
今このレバーを引けば、彼女は死なないとも限らない。
それなのに、こんな風につらつらと話してみせる彼女は、一体自分の命をなんだと思っているのか。
「まだ、わたしの力は強すぎるのよ」
それとも、命なんてなんとも思っていないのか。
そんな彼女だから、あんなことができたのか。
薔薇のように華やかでいて、白百合のように清らかな笑み。
でもそこに流れているのはきっと、青くて冷たい血なんだろう。
「わたしならいずれ、あなたに地位も名誉も財産も、全て与えてあげられる。
わたしはあなたに心も体も捧げるつもりはないけど、それまでの間、せいぜい新婚生活を楽しむとしましょうよ」
呆然と立ち尽くす俺に微笑みかけ、彼女はテラスを出て行った。
甘酸っぱい、胸焼けするような残り香が鼻孔いっぱいに広がる。
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作者名：寧桜 | 作成日時：2018年10月22日 19時
