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「…ごめんね」
「…っ、」
「でも」
一瞬俯いた彼女が何を考えていたのかはわからないけど、もう一度俺を見上げた彼女の表情に、さっきまでの彼女はいなかった。
冷たい仮面をつけ直した彼女は、薄い嘲笑を口元に浮かべて虚ろな目で俺を見つめている。
「わたしはあなたに心と体まで捧げるつもりはないから。
二度とこんなことしないで」
冷たく響く彼女の声が、胸の真ん中のもやもやとシンクロして。
妙に温まっていた心を冷ましていく。
切ないような苦しみと悲しみは拭い去られ、胸の奥に秘められた暗雲のような靄だけを残して、ただそこに、今までと同じ憎しみと絶望が根を生やしていて。
「…いつになったら、」
俺の隣を通り過ぎようとする彼女が、足を止める。
「俺はあんたを殺していいの？」
早くあんたが消えれば。
この胸のしこりも靄も、いらいらするこの感じも、冷たく黒い感情も。
憎しみも絶望も孤独も。
全て忘れることができるのに。
“忘却” は、神様が与えてくれた唯一の幸せになる方法だというのに。
「今はまだ。でも、いつか必ず」
俺はまだ、幸せになってはいけないのだろうか。
凍るような微笑みで俺を見やると、彼女は振り向きもせずに行ってしまった。
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作者名：寧桜 | 作成日時：2018年10月22日 19時
