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大きな鐘の音に、思ったよりも早く、時間が過ぎ去っていたことに気づかされる。
いつのまにか、バルコニーにも広間にも、人は一人もいなくなっていたようで。
帰ろう。
もう待ったってきっと無駄だろう、そう思って月に背を向けると。
「………っ」
カーテンの陰に隠れる人影を見つけた。
「待って！」
駆け出すその人が廊下の角を曲がるとき、たしかに長い髪がなびく。
僕はいつのまにか、タイムスリップしたように幼いときに戻ったような感覚に襲われた。
視界をよぎっては流れていくこの城内の景色は、いつかあなたと追いかけっこをして、かくれんぼをして遊んだときとまるで変わっていなくて。
「待ってください…！」
それなのに。
僕らは互いに素性を明かすこともできずにこんな風に時間を費やして。
大広間に続く大階段にさしかかったそのとき、
「きゃっ…」
彼女が高いハイヒールのせいで足首を挫いてバランスを崩した。
全てがスローモーションに見えて、僕は慌てることもなく、ただいつのまにか体が動いて。
「危ない……！」
前にもこんなことがあったっけ。
大はしゃぎで遊ぶあなたを、僕は危ないからやめろと言ったのに。
聞かずに階段から転げ落ちそうになったあなたを、前にもこうして抱きとめた。
彼女のその華奢で細い腰を支えると、大理石の床の上、からころと音を立てて、仮面が階段を転げ落ちていった。
「…………ソク…ジン…っ」
仮面の外れた僕の頬に手をやって確かにそう呟いた彼女は、仮面の奥、妖しく光るその瞳に涙を浮かべていた。
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作者名：寧桜 | 作成日時：2018年10月22日 19時
