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「………グク、あなた、」
「その名前で呼ぶな」
「………」
「あんたと話してたあの男、ヒョンだった」
「…っ、」
「あんたも気づいてたんでしょ？」
「グク、」
「なあに？Aヌナ、」
“Aヌナ”
そう微笑む俺を見つめる彼女の瞳は恐怖と絶望に揺れ、その綺麗な顔が醜く歪んで。
「……ってて」
「なに？聞こえないんだけど」
「彼のこと、黙ってて」
俯いたままぼそりと言う彼女が、ようやく弱気な姿を見せた彼女が、そのすべてを壊してしまいたいほど憎い。
小さな顎を右手で思いきり掴んで俺の方を見上げさせる。
「人にものを頼むときは、相手の目を見てお願いしますでしょ？」
目にうっすらと涙を溜めて俺を見つめるその姿に、暴走しだした俺は止まらなくなって。
すべてを俺のものにしたい。
すべてを奪ってやりたい。
凍てつくような視線を彼女に突き刺す。
「……っ」
「早く言えよ。じゃないと俺、ヒョンのこと言いふらしちゃうよ？」
絶望に染まっていく彼女の瞳がたまらなく気分を高揚させる。
でもどうしてか、同時にものすごく胸が痛くて。
狂おしいほどに切ないような、そんな苦しみが胸の中を満たす。
「…………お願いします。ジョングク、様」
ゆっくりと息を吐いて確かにそう言った彼女の瞳には、もう涙なんて浮かんでいなくて。
揺るぎない強い眼差しで、俺を見つめている。
「…………」
「ジョングク______________」
「もう、いい」
猛毒が一気に全身を駆け巡るように、憎悪と怒りと悲しみと、そんな感情が瞬間的に押し寄せた。
でもその理由がわからなくて。
荒々しく彼女の顔から手を離して、部屋を飛び出す。
意味、わかんねえ。
なんで俺、泣いてんの？
わけがわからないまま、静かに両頬を涙が撫でた。
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作者名：寧桜 | 作成日時：2018年10月22日 19時
