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「僕のことは…ジンとでも呼んでください。周りからはそう呼ばれてるから」
「………ジン…？」
「…どうしたんですか？」
「あ、いや別になんでもないんです」
「ふふ。名前、教えたのに教えてくれないんですか？」
「………スミレ」
「…え？」
「スミレと、呼ばれてます」
…嘘、でしょ？
『スミレ様、はいかがですか？』
『…え？』
『僕も王女にあだ名をつけて差し上げたくて。王女が僕をジンと呼んでくださるように』
『………』
『王女の綺麗な瞳はスミレの花によく似てますから』
「…A……様…？」
あなたと過ごした一分一秒、僕は一つだって忘れてなんかいない。
“スミレ”
それはたしかに僕らの想い出の中の幻で。
「_____________________っ」
その華奢な肩を僕の方へ回せば。
美しく光る菫色の瞳と目があった。
「A様、」
「どなたのことですか？」
「しらばっくれないでくださいっ」
「人違いです」
僕の横を通り過ぎていく彼女の瞳は、やっぱり眩いほどに光っていて。
月明りのせいだけではない気がした。
涙を拭うような仕草を見せて去る彼女の背中を、僕はただ、呆然と見つめていた。
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作者名：寧桜 | 作成日時：2018年10月22日 19時
