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「あ、おい消すなよ見てたのに」
「なに？おまえは陛下嫌いでしょ」
酔っ払いたちが騒ぐ喧騒の中、あーあとわかりやすくため息をつくボゴムを横目に、カウンターにリモコンを置いた。
バラエティ番組に変わったテレビからは、けらけらと盛大な笑い声が聞こえてくる。
「おまえは陛下好きだよなあ」
「別にそんなんじゃないよ」
「あんな “石の女王” のどこがいいわけ？」
「だからそういうんじゃないって」
薄い灯りが揺らめくなか、グラスに並々つがれたビールを流し込む。
きゅっと締めつけられて痺れるのは、きっと喉だけじゃない。
ボゴムは不機嫌に酒を飲み続ける僕の横顔を、怪しむようににたにた笑って見つめている。
「そういえば俺の家にも届いてたなぁ、招待状」
「………、」
「どうしても、って言えばくれてやらないこともないけど？」
「おまえ、時々そうやって性格の悪さ滲み出てくるよな」
「おまえだってそうだろ」
「…え？」
「A陛下のこととなるとまるで人が変わっちゃう」
「軽々しくその名前を呼ぶなよ」
思わずボゴムを睨みつけると、おお怖い、とわざとらしく身を震わせてジョッキを手にするボゴム。
今一瞬、強く言いすぎたかななんて反省した僕の気持ちを返してくれ。
「…帰るね」
おい待てよとか、ごめん怒ったの、とか騒がしいボゴムに、一言、怒ってないけどごめん、と言い残して机に何枚かの札を置くと、彼は大人しく黙った。
店を出ると、少しあたたかくなった夜風が鼻を掠める。
見上げれば雲の隙間から顔を覗かせる満月。
あの日も本当は、こうなるはずだったのに。
かぐわしい春風のなか、あなたとこうして満月を見上げるはずだったのに。
「…嘘つき」
どうにもならないことはわかっているけど、ついつい言葉に出してしまう。
いいかげん前を向かなきゃならないのにな。
がっくり肩を落として、一人、月に照らされる薄暗い道を家路を急いだ。
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作者名：寧桜 | 作成日時：2018年10月22日 19時
