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あれからしばらくの時が経った。
キムはもう泣かなかったけど、私が部屋を訪れるといつも窓の外を眺めていた。
まるで死を待っているみたいに。
「キム……？」
その日、キムはいつもの病室にはいなかった。
嫌な予感が胸をよぎる。
「キム……っ」
絶望した患者が自ら命を絶つことは珍しくないという。
もしかしたらキムも……なんて考えると怖くなって、込み上げてくる涙を抑えようともせずに部屋を飛び出した。
そのときだった。
「……っ」
ぶつかった誰かに抱きしめられる。
その誰かは……言わずとも知れたキムだった。
バカみたいに涙が出てくる。
TH「先生」
「……っなに？」
TH「俺もだよ」
「え？」
TH「んーん、こっちの話」
顔をあげると、キムは珍しく入院着から着替えてコートを羽織っていた。
まるでどこにでもいる、デートに出かける男子高校生みたいに。
TH「これ……」
キムがコートのポケットから取り出した何かを手渡してくる。
それは小さな……あのノートだった。
TH「今日叶えたいんだけど、いいかな」
開かれたあのページには、相変わらず私と死ぬまでにやりたいことが綴られている。
A先生と行けなかった遊園地デートに行くこと。
A先生と観覧車に乗って頂上でキスすること。
A先生の車でどこかに出かけること。
A先生ともう1度映画を観ること。
「……っ」
正直ひどく狼狽えた。
目の前が真っ暗になった。
彼の目にはもう何も映っていないんだと、絶望した。
だけど私は涙を拭って……笑った。
「うん……っ」
キムの最期に、美しい思い出を残してあげたかった。
彼が望むとおりに、願いを叶えてあげようと思ったの。
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作者名：寧桜 | 作成日時：2022年4月29日 14時
