15 TH ページ15
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時は一週間ほど前に遡る。
悲しみが癒えるのはもっとずっと先のことだろうけど、少しずつ目の前の日常……母さんのいない世界を受け入れ始めていた頃だった。
『生きて……っ』
寝ても覚めても、母さんが残したこの言葉が頭から離れない。
TH「どうしろってんだよ……」
むしゃくしゃする頭を抱えながら、どうしてもベッドでじっとしていられずに病棟を歩き回る。
HS「テヒョンくん？」
TH「あ……」
HS「久しぶり。調子はどう？」
ホソク先生に呼び止められて、思わずその場から逃げ出したくなった。
生きることを諦めている俺が、担当医の先生に合わせる顔なんて持ち合わせているはずもない。
TH「まぁ……なんとか」
HS「そう。ちょっと話でもしない？ジュース奢るよ」
そう言ってりんごジュースを買ってきた先生とりんごジュースが嫌いな俺は、明らかにこれまでのコミュニケーションが足りていない。
ずっと避けてきたんだ。
先生と会えば絶望的な話をされる気がして怖かった。
「二十歳まで生きられない」と宣告されただけでも耐えがたかったのに、それ以上の苦痛に独りで耐えられる気がしなかった。
先生が希望を与えてくれる可能性なんて考えられるほど、俺はずっと冷静じゃいられなかった。
HS「君の先生、素敵な人だね」
TH「……え？」
HS「君とじゃなくても、幸せになれるんだろうなぁ」
TH「……」
先生の言いたいことがよくわからなかった。
よくわからなかったけど、自然とその言葉に唆されて頭の中でA先生の姿を思い描いていた。
俺の知らない誰かの隣で、幸せそうに笑うA先生の姿を。
TH「想像するだけで死にたくなります」
よく考えないうちに発した言葉だった。
「死にたくなる」だなんて縁起でもないし、担当医の前で発するべき言葉じゃない。
でもホソク先生は、なんだか嬉しそうに肩をすくめて俺に笑った。
HS「じゃあ生きないと」
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作者名：寧桜 | 作成日時：2022年4月29日 14時
