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人並みと電灯のきらめきが眼下に遠ざかっていく。
丸い箱の中にキムとふたりきり。
今日という日が終わってしまえば、こうしてふたりで出かけることは二度と叶わないかもしれない。
そんな考えが頭をよぎると、楽しみたいという気持ちとは裏腹に気分が沈んだ。
さっきまでのように会話も弾まない。
「……」
TH「……」
外の景色を眺めたまま、しばらく沈黙が続いていたときだった。
TH「先生」
私をまっすぐに見つめるキムと目が合う。
するとキムがおもむろに私の手を握って。
TH「俺と結婚してください」
確かにそう言ったの。
「……え？」
状況がいまいち把握できなかった。
私の強すぎる願望が幻覚でも見せているのかとも思った。
でも。
TH「俺生きるから。生きたいから。絶対死なないって決めた」
「……っ」
TH「だから、この先もずっと俺の隣にいてください」
「A先生」と私の名前を呼ぶその声に、自然と涙が頬を伝う。
安心したとか嬉しいとか、そんな言葉では到底言い表せない気持ちが胸を満たす。
「死なない」と、「生きたい」と彼が言ってくれたことは今の私にとって何よりの希望だった。
彼がそう願ったところで現実にうまくいくかはわからない。
だけど私はそれでもいいと思った。
それでもいいと思えるほどその瞬間、確かに私は幸せだったの。
「こちらこそ……っ」
ぼやけた視界の中、確かにキムのくしゃくしゃな笑顔が見えた。
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作者名：寧桜 | 作成日時：2022年4月29日 14時
