愛鈍応『勇次郎』 ページ14
バタン
｢やっほ｣
｢……え？｣
とある残業帰りの夜のこと＿＿＿
それは突然に、唐突に現れた
紺青色の清潔感のある絹糸のような髪
どこまでも溺れてしまいそうなほどの深い海色の瞳
太陽を知らない陶器のような肌
まるで子供が悪戯で張りつけたような彼の笑顔に、私はぞくりとした
そもそも
｢すみません……どなたでしょうか｣
オートロックもまともに着いていない郊外に位置する私のアパートは侵入こそされやすいがこんな美しい青年……？に入られるとは
でも
＿＿＿存在感を全く感じなかった
先程から薄ら気味悪い笑顔を張りつけたまま表情はおろか口角すらあげたまま動かない
残業疲れではあるがドアの音に気付かない程疲弊してたなんてあるものなのか
今になって。どっ、と汗が溢れてきた
ドアが開く音はしなかった、閉まる音も
彼は革靴を履いているのに靴音ですら
まるでずっと前からそこに居たような＿＿＿
土足のまま家に上がってきた彼は一直線に私を見据えてやってくる
｢え、ちょ、あの……｣
気づけば、正面にいた
狐にでも化かされてしまったのだろうか
頭が状況に追いつかなくてへたりと座り込む
ただただ冷や汗が止まらなかった
会ったことも無い何も知らないこの美青年はヒタリと私の頬に手を添えると
息を吹き返したように目が輝きに溢れた
｢＿＿＿Aさん｣
どうして私の名前まで……
そう口にしたかったが声が出ない
金縛りにあっているようなもどかしい気分に涙が溢れて小刻みに痙攣が起こり始めた
すると彼は眉尻を下げて微かに頬を赤らめた
＿＿＿興奮、しているの……？
頬に添えられた手にくっ、と力が入り引き寄せられると
｢……っん！？｣
唇に、柔らかいものが当たった
隙間から熱いぬるりとしたものが入ってきて後頭部に手がまわり、一部の隙間も許されないほど唇は密着していた
｢んん……ｯふ…ぁ｣
ようやく出た抵抗の腕も、すごい力で押さえつけられてしまう
気づけば床に倒されていた
｢……や…めて……！！｣
体全体を使って渾身の力で押し返そうとすると
抱きしめられ、私が上に乗っかる状態で倒れた
彼はまだ笑みを浮かべて私を見つめている
獲物を狙うような、開かれた瞳孔に妙な力強さを感じ身震いが体を駆け巡った
巻き付けられたような腕に力が篭もる
｢……逃げられると、思った？｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 140人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
메이 - 全部読みました.ᐟ とっても面白かったです.ᐟ これからも頑張ってくださいね𓂂𓏸 (2022年12月9日 15時) (
レス) @page49 id: 36c85dd659 (このIDを非表示/違反報告)
ソーダ(プロフ) - じゃすみんちゃさん» ひえ！全部！ありがとうございます嬉しいです(TT)更新頑張ります応援嬉しいです！！ (2022年1月23日 2時) (レス) id: babb449235 (このIDを非表示/違反報告)
じゃすみんちゃ(プロフ) - 123全て楽しく読ませていただきました！最高です！次の更新も楽しみにしてます！頑張ってください！ (2021年11月3日 16時) (レス) @page48 id: 97e0b8497b (このIDを非表示/違反報告)
ソーダ(プロフ) - 翔花さん» 全部読んでくださったのですか！？ありがとうございます！！コメントも頂けて作者は幸せです！ (2021年8月12日 18時) (レス) id: babb449235 (このIDを非表示/違反報告)
ソーダ(プロフ) - 名前さん» 神......なんどありがたいお言葉……わたしよりもあなた様が神です……ありがたや… (2021年8月12日 17時) (レス) id: babb449235 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ソーダ | 作者ホームページ：
作成日時：2019年8月30日 2時
