行きつ戻りつ

-31-jk ページ31

.
.
.
「昔の事聞いちゃだめ？」



椅子に乗ったままくるりと回ったチアが
突然そんなざっくりとした質問を向けたが
"昔の事"が何の事かすぐに分かった。

作業部屋の中で話すのは
変な感じだが
チアの目は逃してくれなそうで



「別にいいよ。
聞いてくれれば答えられる範囲で話すよ。」



仕方なくそう答えたら
あの頃の記憶が急に鮮明に出てくる。

チアの質問と同時に
芋づる式にアルバムが開かれる感じ。
Aはまだ髪が長くて
今と違ってよくスカート履いてて
夢見が悪い時は俺によくしがみついてーー

別れるつもりなんてなかったし
結婚なんてご立派な考え方はなかったけど
ずっと一緒に居るんだろうなって
漠然とそう思ってた。

だから俺の仕事の事で
別れる事になった時は本当にーーー



「嫌いになって別れた訳じゃないんだね。」



目の前に今の景色が映った。
さっきまで映写機を見てた様だったのに
今は目の前にチアがいる。

そんなチアの言葉に引き戻されて
"え？"と小さく声を漏らした俺に



「ケンカ別れとかじゃないから
今もあんなに普通に話せるんだなーと思って。」



"いいなぁそういう関係"
と言ったチアのその言葉は聞こえなかった。

そしてタイミングを見計らった様に
パソコンのデスクの上に置いた携帯が
SNSの通知を知らせる。




［コルチカム。幸せになってほしい可愛い友達を見て自分の事を思い出しました。］



椅子から立ち上がった自分がいた。

昔から花が好きだったAが
ベランダの鉢植えを見て言っていた。



「私の最良の日々は過ぎ去ったっていう
花言葉なんだけど、悲しすぎるよね。」

-32→←-30-jk

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す