05#一歩先の天使 ページ7
(Side,ユーリ)
Aは、いつだって俺の先を歩く存在だった。
俺が出来ないことを軽々とこなして見せる。
小さい頃は、それを純粋にすごいと思っていた。
けれど、今は彼女に劣る自分が許せない。
Aの中での俺は何時まで経っても、
“可愛いユーラチカ”のままなんだと思うと、少し複雑だ。
『ユーラチカも後で何か見せて!』
「まだ考え中なんだけど」
『えぇー? じゃあ、一緒に滑ろう。いい?』
「……おう」
にっこりと嬉しそうに笑顔を浮かべるA。
どう考えたってコイツの方が可愛いのに。
「A、これから何するの?」
『ミラ、おはよー。
これからプログラムの補正と完成目指すの。
ユーリにも見てもらうんだ』
「お、私も見てていい?」
『いいよ! ユーリ、“私から目を離さないで”』
「分かってる」
彼女のハグに答え、
リンクに出るAの背を押した。
「A、始めるぞ」
『いつでもいいよー、ヤコフ!』
そう叫ぶと、途端に競技者の顔を見せるA。
流れ出した音楽は、日本の“和”をイメージした楽曲。
あぁ、Aはこういうの大好きだもんなあ……。
「なあ、ヤコフ」
「何だ、ユーリ」
「Aのシニアデビューに合わせてクワド解禁しないのか?」
「あぁ、しない。A本人がそう言っていた」
「……アイツにしては、何か珍しい」
不思議な奴。
それがA。
「Aのビールマンスピン……本当に綺麗」
「チビの頃から身体柔らかかったからな。
得意になるのは当たり前だろ」
“ねー、ユーラチカ! 見て見て〜”
“わっ、お前柔らかすぎて逆に気持ち悪いぞ”
“えー、ひどい!!”
“……柔軟付き合え”
“はぁーい”
「ジャンプの量も十分。てか後半に持ちすぎだろ」
「まあ、いいんじゃないの?」
SPの曲が終わると、Aがすぐに戻ってきた。
『ヤコフ、何処かおかしいところなかった?』
「特に気になるところはないな。加点は狙えそうか?」
『あー、手上げるのなら。うん、考える』
ジャンプの際、手を上げることで加点を狙う。
Aの十八番だ。
その演技によって、
手の表現も少しずつ変わってくるのも特徴的だ。
『ユーリ、どう?』
「この曲ならステップが目立つ。入れてみるとかは?」
『ステップ……。おー、確かに。参考にするね!』
メモ帳に殴り書きされたそれは後々読めるのか。
((いや、読めねえな))
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作者名：化野燎 | 作成日時：2017年6月11日 19時
