04#隣のぬくもり ページ6
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あのバンケットから、しばらく。
全ての試合を終えて、
次回からはシニアデビューという運びになった。
私は、自宅で休養を取っていた。
『つまんない』
その声に反応するのはただ一人。
「練習しに行くか?」
『今は滑らない』
「ならバレエは」
『……ユーラチカがあんまり好きじゃないでしょ。
やるなら二人で楽しいのがいい』
そう言って彼の方に目をやると、視線がぴったりと合った。
相変わらず可愛い顔立ち。
私の好きな綺麗な硝子玉みたいな瞳。
内心そんなことを考えて、
一人で惚けていると急に腕を掴まれた。
「めんどくせえなあ。リンク行くぞ」
『うぇえ〜』
「プログラム変えるんだろ?
俺まだ見てないから見せろよ」
『え、それもうほぼ出来てるって知ってるってことだよね?
何で知ってるの!?』
「ヤコフとヴィクトルから聞いた」
『もう! ユーラチカには内緒って言ったのに!!』
しぶしぶ荷物をカバンに詰め込みながら、
そう言葉を続けていると、
途端に彼の声のトーンが下がった。
「んでだよ。
何でヴィクトルには見せんのに俺には見せねえの」
『!! ……』
「セシル、俺だけなのか?
お互い特別だと思ってるのは」
そんなことない。
私はいつだって、ユーリが私の特別だと思ってる。
『ユーラチカは私の特別だよ。
だから、お楽しみは最後に取って置くの。
最後にユーラチカに見てもらって、誉めて欲しいから』
「っ……!」
『だから、見せなかった。
いいよ。もうほとんど完成間際だし、
今日完成させられればそれでもいいかな。
少しアドバイスとか、貰ってもいい?』
「……おう」
私の幼馴染は、可愛らしい。
ファンの子達が騒ぐ理由もよぉーく分かる気がする。
「髪、伸びたな」
『ん? 次のプログラムに向けて伸ばしてるんだよ』
「気に入った髪型でもあったのか?」
『其処はプログラム見てからのお楽しみね。
きっと分かるから』
「そうか」
シニアデビュー戦にと用意したのは、
“好きなもの”と“私の対極”。
SPに和物、日本をイメージした楽曲。
FPに洋物、悪魔をイメージした楽曲。
SPで簪が使いたくて、髪を伸ばした。
『寒い』
「手貸せ」
いつの間にか、私より大きい手。
優しい手。
(ヤコフー!)
(何だ。二人で来たのか)
(これから今度のプログラムをユーリに見せる)
(出来たのか!?)
(あと少し)
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作者名:化野燎 | 作成日時:2017年6月11日 19時