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百合根「…やっぱり。」
百合根の声が耳元から離れ、甘えるような猫撫で声は、低い唸り声に変わる。
百合根「あの女に気持ちが揺らいでいるのね。」
広臣「違う、Aは関係ない」
百合根「関係なくないわ。今日私に連絡してきたのだって、彼女のあの笑顔に心を奪われたからでしょう？」
広臣「…なんで知ってる」
俺とAの撮影のこと。
百合根「私はね、人脈だけは広いのよ。この身を使って…色んな事をしてこの世界の人脈を広げてきたの」
広臣「……」
百合根「だからかしらね。純粋無垢で揺るがない、愛嬌も何もないくせに皆から愛される、あの、小娘の事が気に入らないの。」
広臣「…Aに手を出すな」
百合根「貴方も、あの子の事 愛しているのね」
百合根が胸ポケットから出したのは、一つのUSBメモリー。
百合根「前に言っていた、切り札の話だけど。
このUSBの中に、四年前に起こったある事件の警察での調書が入ってるの。
香椎さんを当時の彼によるDVから救うため、会社の皆さんは随分無理されたみたいだわ。
…AKIRAさん、一度香椎さんの元彼を半殺しにして警察に捕まってるみたいよ。
その時は正当防衛で不起訴になったし、おたくの社長さんが裏で色々根回ししてメディアに出回ることはなかったけど…
今になってこの事が世間に出回ったら、
ーー香椎さんはどう思うかしらね？」
百合根の言葉に目を見開く。
HIROさんやAKIRAさんを心から慕っているAが、自分の事で彼らに迷惑かける事態になったとしたらどう思うか、俺にも安易に予想がつく。
広臣「やめろ…」
百合根「私だって本当はこんな事したくなかったけど、貴方が手に入らないなら仕方ないわ。これを使って あの女を壊してやる」
広臣「やめろッ！」
声を張り上げ百合根を睨み付ける。
USBメモリーを取り上げようとしたが、百合根は咄嗟にそれをバーテンの方に投げた。
広臣「っ、」
百合根「私、ここのオーナーに顔が効くのよ。ねえ広臣さん？私だって本当は19歳の女の子を傷付けるなんて心苦しいのよ？
貴方の今後の行い次第では、私の彼女に対する当たりも変わってくるわ。
だから、よく考えてね？」
百合根はそれだけ言うと、眉間にしわを寄せ唇を噛み締める俺を置いて バーの奥へと引っ込んで行った。
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作者名：とまと野郎
| 作成日時：2014年11月22日 22時
