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「座って？」
一時間後、バーに着くと百合根は既にそこにいて、彼女の斜め後ろに現れた俺にそう声をかけた。
広臣「ブラントン ロックで」
「かしこまりました。」
彼女の横に腰掛け、バーテンにウイスキーを頼む。
程なくして出てきたそれに口を付けると、先に口を開いたのは百合根の方だった。
百合根「まさか広臣さんの方から連絡してきてくれるなんて。…今日はあの店に行かなくて正解だったわ」
そう言って笑う百合根。やはりこの女は今日、意図的に来なかったんだ。
広臣「話したい事があった」
百合根「でしょうね。でもその前に…
ねぇ広臣さん、あの日のこと覚えてる？」
貴方と私が一晩を共にしたあの日。
俺の手に自分のそれを重ね 囁くように言う。
(…覚えてない)
あの日、気がついたら百合根と共にベッドで寝ていた。彼女はガウン姿で、俺は下は着ていたが上半身は裸だった。
飲み過ぎによる酷い頭痛、どちらのものかとも付かない香水の混ざり合った匂い。
百合根「私ね、あの日から貴方のことが頭から離れないの。貴方凄く酔ってたから覚えてないかもしれないけど、
その逞しい身体で…わたしの事、…抱いたのよ？」
ドクンッと心臓が跳ねる。
百合根「一度でいいって言ったけど、忘れられないの。
ねえ、もう一度私を抱いて？」
耳元で聞こえる彼女の囁きに全身に鳥肌が立つのがわかった。
広臣「…無理だ」
百合根「……。」
広臣「アンタを抱く事は出来ない」
好きでもない女を抱く事なんて出来ない。
そう思っているからこそ、百合根に聞かされた事実は俺の全身を自己嫌悪で包み込んだ。
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作者名：とまと野郎
| 作成日時：2014年11月22日 22時
