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「俺が、Aちゃんを好きだから」
鳩が豆鉄砲を食らったような、とは正にこのこと。
好きか嫌いか、というのであれば三日月は伊吹を好きだ。
桔梗や陣馬、志摩に九重、羽野とゆたかも。
頼れる仲間で、大切な人たち。
だが、明らかにそれとは似て非なるもの。
「…あぁ、そう」
散々考えた結果、紡いだ言葉はそれだけだった。
なのに、彼は姿を消した。
ネットでは桔梗は好き勝手に言われた上に異動になって、彼と志摩はいつの間にか居なくなった。九重は機捜から外されて、陣馬は重傷を負って意識不明。
どうして、いつもこうなるんだ。
縺れそうな足を前へ前へと突き動かした。
失いたくない、もう二度と。
親しい人が苦しんでいる姿はみたくない。
それなのに。
電話を掛ける。
スピーカーホンに切り替えて、自分の荒い呼吸音の合間にも耳をすます。
「はいはーい、ミカゲさん?」
「五味くんかっ!?」
「どないしはったんです、そないな声出して」
三日月の尋常ではない様子が電話越しでも伝わったのか、ふざけた声音が真剣なものに変わる。
「すまない、私らしくなくて…今追われて、いる、君の手を借りたい…今から会えるか」
懇願するような声に、五味は口元に弧を描いた。
――――――――――――堕ちてきた、彼女の方から。
「マップ送りますわ、でもあんまり期待はしないで下さいよ。俺もさっきまで追われとるんです、お巡りわんわんに」
「私は構わんよ、君は…大丈夫なのか。怪我はないのかい」
あぁ、あぁ、彼女はなんて、清らかだ。
隣にいてほしい、きっと彼女はこの心の穴を埋めてくれるに違いない。
堕ちるところまで堕ちていこうや、ミカゲさん。
「お前らじゃあ、無理や」
部屋に閉じ込めた警察2人を、五味こと久住は扉越しに嗤った。
反吐が出る、正義なんぞ。正しさなんぞには。
*
「ミカゲさん!」
港でその姿を確認すると、久住は息を飲んだ。
土手っ腹に銃弾でも貰ったのか、左手は傷口を押さえていて、顔色は悪い。
「あんたなぁ、人の心配する前に自分を大事にせぇよ!」
「はは、最もだな…すまない、足手まといになる」
ふらり、傾く体を支える。
重傷のミカゲを連れたまま使える逃走経路を頭で組み立てるが、どれも時間がかかりすぎる。
逃げ切る前にミカゲが事切れるのが先だ。
「見つけた」
後ろから聞こえた声に、久住はミカゲを抱き締めた。
カシャンと。
酷く冷たい音がした。
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ルーツ(プロフ) - イマツギさん» コメントありがとうございます! 書き留めていたものをちょくちょく投稿していこうと思っています! 一挙放送楽しみですねぇ(*^-^) (2020年12月28日 17時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
イマツギ(プロフ) - 早く続きが見たいですね!更新頑張ってください! (2020年12月28日 3時) (レス) id: e522761e6b (このIDを非表示/違反報告)
ルーツ(プロフ) - みかさん» ご愛読していただいてありがとうございます…! 遂に三日月が自分でひいていた境界線を打ち消して一歩前進しました。この話、終わるまで長くなっちゃいそうです(笑)。気長にいきますね! (2020年9月12日 12時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
みか(プロフ) - ルーツさん» 凄い、好き、好きです…!!(語彙力)ドラマは終わっちゃったけど、ほんと、、この小説好きで、ずっと続いて欲しい((。良かった、境界線は、ただの線だもんね…乗り越えられて良かった… (2020年9月6日 21時) (レス) id: 72afcfd334 (このIDを非表示/違反報告)
ルーツ(プロフ) - みかさん» そう言っていただけると嬉しいです…!! 遅いながらも暇を見つけてちまちま更新していくつもりです! まだしばらく暑いみたいなので気を付けないといけませんね…(苦笑) (2020年8月25日 20時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルーツ | 作成日時:2020年3月9日 19時