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「中堂さん」
UDIの一室、カップヌードルを啜る中堂に、所長の神倉が声を掛けると、中堂は箸を置いた。
「三日月さんが、これから来るようで…」
「クソみたいな父親の遺体を見に、ですか。大方木林が連れてきたんでしょうが……」
三日月が捜し続けた弟は原型をとどめず、対して父親の遺体は顔が綺麗なものだった。後頭部を強く打ったのが死因と見られるが、皮肉なものだ。
顔を見たかった弟の顔は腐敗し崩れ落ちたのに、再会を望んじゃいなかった父親の顔は、傷一つないだなんて。
重い腰をあげて、中堂が外を見ると、目をむいた。
そこには、まるで高校生の下校中の様子を切り取ったような光景があった。肩を組まれて、やめろと言いながらも嬉しそうな三日月の顔。
輪の中に居るような奴だっただろうか。
いいや、違う。どこか一歩引いて、内側に入れた人間にですら自分を見せずに、ただ守ろうととしていた奴だった。
「これは、驚きましたねぇ…」
黙りこんでしまった中堂の隣で、神倉は少し嬉しそうに呟いた。
神倉が三日月を自分の娘のように思っていることは知っている。だから父親の所業にこめかみを震わせ、口を一文字に結んでいた神倉の心情も理解できた。
三日月Aは、本当の顔を見せない。
それが、あんなにも表情を出せるようになっているなんて。きっと回りに居る3人のお陰なのだろう。
神倉が怪獣大決戦と称した、中堂と刈谷と言い合いが起こったあの日より前。
UDIには三日月が来ると思っていたのに、来たのは刈谷という毛利よりも気に食わない男だった。
どうしてアイツじゃないのかと文句を言った中堂に、刈谷は言い放った。
【三日月も墜ちたもんだ、あの女隊長の甘い言葉にのせられて捜査一課を抜けた】
掴みかかった瞬間、神倉に止められたが、今でもあのとき殴ってやればよかったと思っている。
三日月がUDIに来る際、仮眠を取らせていたのは神倉だ。関連書類は用意できているのに、探すのに時間がかかるからと言って席を外す。
誰もいなくなった所長室で糸が切れたように倒れる三日月の姿を、何度見たか。
目が覚めた頃を見計らって神倉が戻れば、彼女はもう既に刑事だった。
そんな彼女が、本当に笑っている。
「神倉さん、アイツが来るまでにその顔なんとかしといてくださいよ」
赤くなった目元をティッシュで押さえる神倉の肩をポンと叩いて、中堂は彼らを迎えるべく部屋を出た。
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ルーツ(プロフ) - イマツギさん» コメントありがとうございます! 書き留めていたものをちょくちょく投稿していこうと思っています! 一挙放送楽しみですねぇ(*^-^) (2020年12月28日 17時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
イマツギ(プロフ) - 早く続きが見たいですね!更新頑張ってください! (2020年12月28日 3時) (レス) id: e522761e6b (このIDを非表示/違反報告)
ルーツ(プロフ) - みかさん» ご愛読していただいてありがとうございます…! 遂に三日月が自分でひいていた境界線を打ち消して一歩前進しました。この話、終わるまで長くなっちゃいそうです(笑)。気長にいきますね! (2020年9月12日 12時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
みか(プロフ) - ルーツさん» 凄い、好き、好きです…!!(語彙力)ドラマは終わっちゃったけど、ほんと、、この小説好きで、ずっと続いて欲しい((。良かった、境界線は、ただの線だもんね…乗り越えられて良かった… (2020年9月6日 21時) (レス) id: 72afcfd334 (このIDを非表示/違反報告)
ルーツ(プロフ) - みかさん» そう言っていただけると嬉しいです…!! 遅いながらも暇を見つけてちまちま更新していくつもりです! まだしばらく暑いみたいなので気を付けないといけませんね…(苦笑) (2020年8月25日 20時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルーツ | 作成日時:2020年3月9日 19時