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「…そうか、死んだのか」
桔梗に繋がっているスマートフォンが、三日月の手から滑り落ちた。けたたましい音に、伊吹は以前似たようなことがあったなと思い出した。
あのときはそう、道を歩く仲の良さそうな親子を見ていたのだったか。
落とした端末を拾おうともしないその様子に、木林が顔色を変えた。傍観者に徹するタイプだが、知己が不安定な状態で放っておくほど無慈悲ではない。
「三日月さん、大丈夫ですか? …A?」
伊吹はいの一番に駆け出すと、スマートフォンを拾って三日月に持たせた。緩慢な動きで握らされたスマートフォンを見て、握らせた人物を見る三日月の瞳はどこか虚ろだ。
「Aちゃん、自分の家はやめよう。そうだ、隊長の家に行こう。陣馬さん家でも俺ん家でも、志摩の家でも良い。九ちゃんだって、多分泊めてくれる」
「貴方は?」
「同じ部署の、先輩。伊吹藍。後ろにいるのが志摩と、九重な」
伊吹は自分と、後ろから自分を追ってくる二人の紹介を木林に簡潔に済ませると、三日月に向き直る。
「……少し、一人になりたいんだ」
「伊吹、」
志摩が、一人にしてやろう、と言おうとしたときだった。
「絶対に駄目、一人になんかしねぇ」
感付いた志摩の制止を振り払い、伊吹は三日月の両肩を掴んで、自分の真っ正面にいる三日月に叫ぶ。
「俺は、昔のAちゃんを知ってる。ちょっと男勝りで、元気で、弟と手を繋いで歩いてたよな。笑顔が太陽みたいで、眩しかった」
伊吹の言葉に、三日月は唇を噛む。
堪えきれなくなったのか、そこから血が滲み、顎を伝った。
「それは昔の話だろう! 人間なんて数年あれば変わるんだ!!」
脳裏に父親の姿が鮮明に蘇る。
優しかった父親は、母が死んでから徐々に狂っていった。優しかった頃の父親はもう思い出すことはできない。
今の三日月の記憶にあるのは、弟を殺そうとして包丁や酒の瓶を振りかざす悪鬼のような姿だけ。父親は、もはや弟を殺して防火水槽に沈ませて逃げた容疑者、人殺しだ。
その容疑者を、憎むべき存在をも失ったけれど。
「だって仕方ないじゃないか! 笑っていなければ、穏やかでいなければ……私に何の価値がある?」
服の胸元が皺になるほど、強く握りしめる。
怒りを殺すように密やかな声で投げ掛けられた疑問。
「私はどうすれば良かった!? 最善を選んだ筈なのに、何も私の掌には残ってくれなかった!! 大切な弟も、憎い父親でさえも!!」
心の叫びを、三日月は初めて言葉にのせた。
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ルーツ(プロフ) - イマツギさん» コメントありがとうございます! 書き留めていたものをちょくちょく投稿していこうと思っています! 一挙放送楽しみですねぇ(*^-^) (2020年12月28日 17時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
イマツギ(プロフ) - 早く続きが見たいですね!更新頑張ってください! (2020年12月28日 3時) (レス) id: e522761e6b (このIDを非表示/違反報告)
ルーツ(プロフ) - みかさん» ご愛読していただいてありがとうございます…! 遂に三日月が自分でひいていた境界線を打ち消して一歩前進しました。この話、終わるまで長くなっちゃいそうです(笑)。気長にいきますね! (2020年9月12日 12時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
みか(プロフ) - ルーツさん» 凄い、好き、好きです…!!(語彙力)ドラマは終わっちゃったけど、ほんと、、この小説好きで、ずっと続いて欲しい((。良かった、境界線は、ただの線だもんね…乗り越えられて良かった… (2020年9月6日 21時) (レス) id: 72afcfd334 (このIDを非表示/違反報告)
ルーツ(プロフ) - みかさん» そう言っていただけると嬉しいです…!! 遅いながらも暇を見つけてちまちま更新していくつもりです! まだしばらく暑いみたいなので気を付けないといけませんね…(苦笑) (2020年8月25日 20時) (レス) id: 370884fb03 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ルーツ | 作成日時:2020年3月9日 19時