東京合宿 ページ10
◇
「翔陽くんは無理だと思うの？」
飛雄と言い合った後、珍しく静かな翔陽くんを昼食後に偶然見つけた私は、一人なんて珍しいねと笑いながら声をかける。
先程の試合の衝突を心配して声をかけたつもりが、突如、Aさんも無理だと思いますかと変人速攻について聞いてくる翔陽くんに、私は真っ直ぐ見つめてそう聞き返した。
「みんなが無理だって言うから…」
「周りに言われたくらいで何言ってんの」
いつだってファーストペンギンは馬鹿だ無理だって周りに笑われるもんだよと私が笑うと、ペンギン？と可愛い顔で首を傾げる翔陽くん。
「挑戦したいことがあるならやらないと」
「…でも、これ以上は俺のわがままに」
「我儘は別に悪いことじゃないでしょ」
行き過ぎた我儘はダメだけど、誰か一人の挑戦が新しい道を切り開くこともあるんだよと、スマホを取り出して氷の上をチビチビ歩くペンギンの動画を見せる。
「か、可愛いですね」
「うん。」
一緒に大人しく動画を見てくれる翔陽くんに、前の方にいるペンギン見ててと指でさすと、一人のペンギンが群れから飛び出すのを見て、翔陽くんはあっと驚いたように声を上げる。
集団で行動するペンギンの群れから、天敵がいるかもしれない海へ、魚を求めて最初に飛び込む果敢なペンギン。
それを真似して次々と飛び込むペンギンたちに、最初の一歩を踏み出すベンチャー精神がイイよねと共感を求めて携帯をしまうと、翔陽くんはファーストペンギン…カッケェ！といつもの笑顔で笑ってくれた。
「まあ。
私たちがやることに答えなんてないし、正解もない」
後悔しないようになんて一番難しいのかもしれないけど、終わった時、自分がやって良かったと思えた方がいい。
「少なくとも私は、翔陽くんを応援してるよ」
試合になったら敵になっちゃうけどねと、翔陽くんの背中を軽く叩いて立ち上がれば、翔陽くんはなんでそこまで…？と不思議そうに聞いてくる。
「飛雄との速攻を初めて見た時から、
私が翔陽くんのファンだから」
そう言って笑う私に、翔陽くんはすごく驚いた様子で驚き、俺、頑張ります！と言って高く飛び跳ねた。
「ってことで、ファン1号としてサインちょうだい」
「サイン…まだ考案中のものでもいいですか」
「考案中ならあるんかい」
◇
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作者名：西川あや | 作成日時：2024年2月21日 11時
