埼玉合宿 初日 ページ20
◇
髪を乾かした後、どうせ呼ばれるならとお風呂場近くの広場で椅子に座っていれば、夏の虫の音が聞こえてくる。
よっぽど田舎なんだなぁ…と壁に寄りかかりながら、夏なりの風情を楽しんでいると、お待たせしましたと言ってすぐに赤葦が現れた。
「お風呂上がるのはやいね」
カラスの行水ってやつ？と座ったまま冗談っぽく笑いかけると、私の隣に腰を下ろす赤葦は、早く話したくて急いで出たと返事する。
「あなた、
俺が好きって言ったの忘れてませんか？」
その言葉にどきりとして赤葦の顔から床に視線を落とすと、赤葦は私の顔を覗き込むようにして不敵に笑う。
無理矢理目を合わせないようにする私に、こっち向いてくださいと私の腕を引く赤葦。
「ままま…まって！こういうの困る！」
誰かに見られたらどうするの！と焦って廊下を見ると、私の嫌な予感は的中し、たまたま通りかかったらしい飛雄と山口くんがとんでもないものを見たという顔をして立っている。
「赤葦さんと…Aさん」
烏野一年生はこれからお風呂なの？と、気まずい空気を誤魔化すように笑って聞くと、ツッキーと日向はもう入り終わってますと山口くんが答える。
「…影山、早く行こう。邪魔しちゃ悪いよ」
「邪魔ってなんだ」
不思議そうに首を傾げる飛雄に、たぶんあの二人付き合ってるから…と全然こちらに聞こえる声で耳打ちする山口くん。
「付き合ってるように見える？」
私がすぐに付き合ってないよと否定しようとすると、なら嬉しいなと空気も読めずに照れる赤葦に、ちょっと黙ってとお願いする。
「俺が去年の合宿で告白したんだよ」
そう二人に正直に話す赤葦に、飛雄が驚いたように目を開く。
そんな飛雄のことを必死に引っ張る山口くんは、お邪魔してすみません…と肩身狭そうにお風呂場に向かって歩いていった。
「自分からバラすタイプなの君…？」
私なんかに告白したこと広まっちゃうかもよと驚いて思わず口に出すと、やっぱり覚えてたんですねと言質を取られてしまう。
「…改めて言うけど、
赤葦の気持ちには答えられない」
今は付き合う余裕もないしとはっきり言うと、わかってますと少し笑って赤葦は頷く。
「それでもいいんです」
そう言って赤葦はこちらを見ると、私の話を聞きたいと言って、学校の友達の話や行きたい大学についてなど、色んなことを私に質問した。
◇
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 581人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：西川あや | 作成日時：2024年2月21日 11時
