東北遠征 ページ21
◇
「っよし！田中くん！
次は救急バッグとかも運んじゃおっか！」
「ハイ喜んでぇ！」
カッコイイ！力持ち！頑張って！と田中くんをこき使っていると、ドアからひょっこりとオレンジ頭が顔を出す。
「あ、翔陽くんだ」
「っハ、ハイ！！」
暇なら一緒に運んでおこうよと誘うと、分かりやすく緊張した様子で頷く翔陽くんに、私は試合中とは随分印象が違うなと少し笑ってしまう。
「私のことはAでいいよ」
「ハ、ハイ！Aさん！」
そう私が言った通りに素直に返事する翔陽くんに、速攻凄かったね！あれどうやって練習したの？と思ったことをそのまま口に出していく。
最初のうちはえへへと照れている様子の翔陽くんだったが、少し考えるような素振りを見せると、もっとたくさん練習がしたいですと突如真面目な顔で呟いた。
「…」
試合の時も思ったが、この子の急に見せる集中力…というか圧迫感が少し怖い。
飛雄と似たようなものを感じるし、きっと翔陽くんが居る限り、飛雄もこの子自身もチームで孤立することはないだろう。
「翔陽くんって飛雄と仲良いの？」
「いえ、全くです！」
「おぉ清々しいね」
キリッと返答する翔陽くんはあまりにも辛辣で、飛雄が日々自分にしてくる様々な悪行を説明してくれる。
最初はトスを上げてくれないケチ野郎で、部活も飛雄のせいで入部させて貰えなかったこと。
飛雄が原因で教頭のカツラを吹っ飛ばしてしまったことなど、普段の大人しい飛雄からは考えられない面白い話がぽんぽん出てくる。
「あはは！」
いいな楽しそうで！と爆笑する私に、どこが！？とびっくりして前のめりになる翔陽くん。
「おい、日向！お前の荷物散らかしっぱなしだぞ！」
そう言って現れた飛雄は翔陽くんの首根っこを掴み、何してたんだと怒りながらこちらへ視線を向けて、驚いたように固まった。
「…Aさんもいたんすか」
「うん。荷物運ぶの手伝って貰ってたの」
田中くんもあっちにいるよと指をさせば、飛雄はやっぱり…と納得したように頷き、あんたここでサボってたのかと疑いの眼差しを向けてくる。
2人を効率的に動かして皆の荷物をねと説明するが、飛雄はやや強調して結局サボってたんすねと、とてもとても冷たーく言い放った。
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作者名：西川あや | 作成日時：2022年10月7日 1時
