県立烏野高等学校、事務職員です。【５】

205　合掌 ページ5

――全日本バレーボール高等学校選手権大会、宮城県代表決定戦一次予選当日



　「ひ、日向大丈夫？！」

　「大丈夫大丈夫、来る途中で吐いたしスッキリした。お腹空っぽだけど……」

　「朝から大量にカツ丼食べてくるとかウケる。そら酔うわ」

　「このボゲ日向くそボゲエッ！」

　「影山の罵倒ボキャブラリーは”ボケ”だけだなあ」

　「がっがんばって増やします！」

　「ナスも使えるよ」

　「変な罵倒教えないでください」



　会場にて、試合前とは思えない緊張感の無さ。

　というより緊張しすぎて試合前とは思えないこのバタバタさ。

　日向くん含め小心者たちがいつもより縮こまっている。



　「勝負の日はカツ食うだろ普通！」

　「普通とは一体」

　「私は昨日カツ煮食べたよ。普通はその日じゃなくて前日だと思うけどね」

　「普通とは」

　「ひ、日向のゲロ思い出したら貰いゲロしそう……」

　「？！ 早くトイレ行きなよ！」

　「お、俺も緊張と相まって……ウッ」

　「集中してんなと思ったらゲロ我慢してたのかよ？！」

　「翔陽バスでゲロるの２回目ってほんとか？！」

　「君たちゲロゲロ汚いよ。蛙じゃないんだから」

　「拾いづらいボケぶち込むのやめてもらっていいですか」



　とか言いつつ拾ってくれるの知ってるよツッキー。



　他校からの視線が刺さる。

　多分あいつらほんとに青城追い詰めたのかー、とかほんとに高校生かー、とか社会人いんじゃねーかーとか色々言われてんだろうな。




　まだアップまで時間があるから日向くんは奇妙な歌を歌ってトイレに行った。

　公共の場でしょんべんの歌を歌うのは良くないと思うんだお姉さん。





・

　「前の試合終わった、行くぞ」


　澤村キャプテンの合図で走ってコートに入る。

　試合が終わった前のチームが俯きながら体育館を出る。

　烏野は、絶対顔を上げてコートを出るんだ。

　インハイのような思いは１回だけで充分だ。

　今回対戦する相手は扇南高校。

　なんだか柄が悪い。田中くんも言ってる。いやお前が言うか。



　「先、サーブです」



　いよいよ公式アップも始まった。



　「参ります。宜しくお願い致します」

　「ブハッ」

　「Aさん？！」



　田中くんが菩薩顔で手を合わせる姿に噴出してしまった。

　そして力強いスパイクを打った後お粗末様で御座いましたと菩薩顔で合掌し影山くんに頭を下げた。

　ツボだからやめてくれ。

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