県立烏野高等学校、事務職員です。【５】

218　柴犬 ページ18

「ぎゃふんッ！！」

　「及川アアアッ！！」



　どってーん尻餅をつく及川。絶対怪我するなよ大事な時期なんだから。

　そんな及川を後目にスイーと滑って近付いてくる花巻たち。

　いや１人は及川助けてやれ。



　「お兄さーん、その子に何か用あるんですかー」

　「悪いけど俺ら一緒に来てるんでナンパするなら別の子狙ってくれますかー」

　「うわ、君たちデカいね」

　「ほら、行きますよハナ子」

　「ハナ子ってもしかして私の事？」

　「国見が昔飼ってた柴犬の名前らしいっスよ」



　私は国見くんに犬として見られていたという衝撃の事実を知り、その場から離れさせられた。

　でも村田さん(仮)のおかげでちょっとは滑れるようになった気がする。

　あれだ、荒療治だ。

　不本意の出来事だったが、及川と同じくらい下手だった私がかなり上手くなった。

　ところで及川はどこ。




　「あ、いた」



　頑張って立とうとしているが立つことすらできない及川がなんだか可哀想。

　成長した姿を見せるようにスイーと及川の前に回り込む。



　「見て見て、めっちゃ滑れるようになった」

　「俺が転んでる間に何があったの……」

　「とりあえず立ちなよ」

　「立てないよお……」

　「えー可哀想に」

　「何その感想」



　もう１周してくるからその間に立ってろよ、とスパルタ気味において行った。

　滑れると楽しいねこれ。



　「Aさんの上達が恐ろしいっス」

　「このペースで行ったら空も飛べそう」

　「どういうことスか」

　「あ、及川が立った」



　滑れる組に混じっていると及川がやっと１人で立ち上がったみたいだ。感動だ。



　「あっ見てAちゃん！ 立てたッ、俺立てたよ！」

　「よっしゃじゃあ行こうか」

　「え」



　ぱあっと笑顔になった及川だったが私が手を引いて走り出すと一気に顔が引きつった。

　大丈夫。私もさっきそれやられてすごい嫌で死ぬかと思ったけど上達したから。

　すっごい殺意が芽生えたけど。

　歴史は繰り返す。




　「ちょっAちゃん速い速い！！」

　「楽しい！」

　「怖いよ！」

　「楽しい！！」

　「Aさんが荒ぶってる」

　「すげえスピード出てんな」



　もう止まれないよね。めちゃくちゃ楽しい。

　人の嫌がる姿って結構そそるものがあるね、黒尾くんの気持ちも分かる。




　「俺初めてAちゃんから逃げたいと思った」

　「逃がさない」

　「嬉しくない」

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