愛し愛され。振り振られ。【灰谷竜胆】

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退去日までは、
前の家で過ごす事にした。


まだ竜胆といられる…。



フワフワ夢見心地で、
一人で歩いていても、ニヤニヤしちゃう。




「もしもし」
「どこいんの？」
「スーパーで買い物してるよ」
「お？今日飯なにー？」




新婚夫婦みたい！

店員さんが、ユルユル顔の私を見て、
若干引いてるのは、気のせいじゃないと思う。




「和食にしよっかなって」
「うまそ！つか荷物重いだろ？迎え行く」




優しいなぁ。


竜胆が旦那さんだったら、絶対幸せになれるね。


傍にいられるだけで、
すきだよって言われるだけで、いい。



高望みはしない。



でも、たまに竜胆の“一番”になりたいな
って、ふとした拍子に考えてしまう。




「竜胆！」
「走んな、危ねぇだろ」




ニコニコしながら、腕を広げて少し屈んでる竜胆に、飛びつく。


そんな風に待たれたら、
走りたくなっちゃうよ！




「寒ィな、早く帰ろうぜ」
「うん！」




買い物袋を持ってくれて、
指を絡ませ、手を繋ぐ。



すぐ横の竜胆を見上げると、
私の視線にすぐ気づき、「ん？」って眉毛を動かす。




「なんでもないっ」
「前見て歩けよ、転ぶぞ」




ニカッと笑って、私の頭を撫でる。



だいすきな、だいすきな竜胆。
離れたくないなって、手をギュッと握った。



お家について、
ご飯の支度をしていると、竜胆の携帯が鳴った。




「どうした……美愛」




なるべく、冷静に、冷静に…。


と、意識してても、やっぱり何を話しているのか気になって、料理の手が止まってしまう。




「ん？あー明日ね、どこで？」




明日は美愛ちゃんと会うのか…。


レンくんに、
ヤケ酒付き合ってもらおうかな…しくしく。




「わかった」




あわわ。
電話終わったんだ。


止まっていた手を、もう一度動かし始める。




「A」
「な、なに！」




キッチンに立つ私に、バックハグ。
耳元で竜胆の色っぽい声が響く。




「明日、美愛と、」
「い、いってきていいよ！」
「あぁ、電話聞いてた？Aも、」
「私は予定あるから！」




なにが悲しくて、
二人がイチャイチャしてるとこを見ないといけないんだ！




「……予定って何」
「えっと…、ご飯行くの！」
「……誰と」
「と、ともだち！」




レンくんが空いてなかったら、行けないけど！


竜胆をチラッと振り返ると
不機嫌そうに、顔をしかめている。




「……遅くなんなよ」
「……うん」


小さな溝が、出来たような気がした。

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