愛し愛され。振り振られ。【灰谷竜胆】

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目を覚ますと、杉山はいなかった。


殴られた頬と、下腹部が痛い。
服を整え、鞄を持って、倉庫を出た。




タクシーを呼ぼうと、携帯を探す。


あぁそうだ。
車に乗せられた時に、落としたんだ…。




フラフラと大通りを目指して歩き、なんとかタクシーに乗り込んだ。




一瞬ミラーに映った自分の顔が、
少し腫れていたけど、どうでも良かった。





「着きましたよ」
「……ありがとうございます」




タクシーを降りると、
なんの嫌がらせなのか、キャッキャッ楽しそうな、竜胆と美愛ちゃんの姿。



家の中でやってほしい。
よりによって、なんでマンションの前にいるのか…。



今の感情で、二人を目の当たりにするのはキツイ。




「あれ？竜胆の隣人さん…？」




美愛ちゃんの可愛い声。


あなたは隣人。
私は、竜胆の大事な人って言いたいの？




「A、おかえり」
「……ただいま」




平然と私に話しかける竜胆。


それにすら、
沸々と黒い感情が湧いてくる。


私に構わないで。




「今日遅かったな？」
「ほっといて」




仕事なんかとっくに終わってた。

どっかのクソ爺に、搔っ攫われてこんな時間だよ。
竜胆の言う通り、店なんて辞めれば良かった。




「あ？なんだその態度」




怒りを含んだ声色をシカトして、
二人を通り過ぎた。


……が、


竜胆はそれを許さない。




「待てよ」
「離して」




肩を掴まれ、見たくもない二人の方へ向かされる。
早く帰って、このドス黒い感情を沈めたいのに。




「あ、の！」
「……なに」




美愛ちゃんは何も悪くないのに、冷たく当たってしまう。




「竜胆の事…、よろしくお願いします」
「……あなたに言われる筋合いない」




私のこの言葉に、
とうとう竜胆がキレた。




「美愛に謝れ」
「竜胆い、いいから！」
「挨拶は出来ねぇ、謝れねぇ、何様だテメェ」




何も言わない私の頬を、竜胆が片手で挟んで持ち上げた。
その瞬間、激痛が走る。




「いったいっ！」
「え……、お前その顔どうし、」




私の顔を覗き込む竜胆を突き飛ばし、階段を駆け上がって、家に飛び込んだ。



今更になって、ワナワナ震える体。

力が入らなくて、玄関に座り込んだ。







「おい！」




玄関をドンドン叩く音、
ノブをガチャガチャする音、




「開けろよ！A！」




大好きな人の声を背に、膝を抱えて蹲る。

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